クリニック開業の資金繰りと決済で現金を残す実務資金設計ガイド入門講座

開業して1〜3年、売上は計画通りに伸びているのに、なぜか月末の現金残高だけが薄くなる。診療報酬の入金はある、銀行融資の返済も遅れていない。それでもボーナス月やインフルエンザの検査が増えた月に、口座残高が一気に冷える。この「うっすらした不安」を放置すると、3年目以降の運転資金と追加投資の余地が目に見えて削られます。

原因は、開業資金や融資の多寡ではなく、決済と入金タイミングを前提にした資金繰り設計がないことです。現金、クレジットカード、医療ローン、信販、リースという決済と調達の選び方次第で、同じ売上・同じ利益でも、手元に残るキャッシュはまったく別物になります。にもかかわらず、開業時に銀行とは細かく相談しても、「決済」と「資金繰り」を一体で設計しているクリニックはほとんどありません。

一般的な「クリニックは潰れにくい」「借入は少ないほど安全」といった開業コラムは、設備資金と運転資金の額、融資条件、診療報酬の見込みまでは触れても、決済手段ごとの入金サイトと資金フローのズレまでは踏み込みません。その結果、毎年同じ月に現金が凹む「資金繰りの谷」、患者は来ているのにキャッシュが増えない診療報酬依存、銀行融資は通るのに信販の加盟店審査で落ちる、といった“見えない損失”が積み上がります。

この記事では、内科・小児科クリニックの開業医が直面するこのギャップを、感覚ではなく資金・決済・運転資金の実務ロジックで分解します。資金繰り“あるある”の数字のクセを押さえたうえで、現金・クレカ・医療ローン・信販・リースをどう組み合わせれば、診療報酬の遅い入金を補い、自費診療の高額メニューをキャッシュのエンジンに変えられるかを整理します。さらに、数字が苦手な医師でも扱える月次キャッシュフロー簡易シートの作り方、コスト削減に走る前に見直すべき運転資金と入金サイト、そして決済会社・銀行・税理士に相談する前に用意しておくべき最低限の資料まで、一連の流れとして扱います。

読み終えたとき、あなたは「どの決済をどう選び、どの融資・リース・補助金と組み合わせれば、3年目以降も現金を厚く保てるか」を、自院の条件に引き直して判断できるようになります。この記事を読まずに開業・運営を続けること自体が、毎月、静かに資金を失うリスクと言っていい内容です。

セクション 読者が手にする具体的な武器(実利) 解決される本質的な課題
前半(危ない思い込み〜資金繰り“あるある”〜決済比較〜信販審査) 開業資金と運転資金の設計ミス、診療報酬依存、クレカ偏重、信販審査NGの原因を特定し、自院のフローの弱点を言語化できる 「なぜ現金が残らないのか」が曖昧なまま、勘と節約だけで経営判断している状況
後半(月次キャッシュフロー〜4本立てファイナンス〜自費拡大〜チェックリスト) 月次キャッシュフロー簡易シートと決済シミュレーション、決済×融資×補助金×リースの組み合わせ、自費メニューの決済設計、専門家に相談するための実務チェックリスト 資金繰りを「見える化」し、3年目以降もキャッシュを厚く保つための具体的な打ち手がない状態からの脱却
  1. 「クリニックは潰れにくい」は半分ウソ? 開業資金と資金繰りの“危ない思い込み”
    1. 想定より危険な「開業資金」の内訳とフローのズレ
    2. 医師・税理士・金融機関でズレが起きるポイント
    3. 「借入は少ないほど安全」という古い常識を疑う
  2. 開業1〜3年目の内科・小児科クリニックで起きている資金繰り“あるある”事例
    1. 同じ月に現金残高が凹む「毎年同じ谷」の正体
    2. 「患者は来ているのに、キャッシュが増えない」医院のフローを分解する
    3. 事例で見る:金融機関が静かに心配しているクリニックの数字
  3. クレカだけでは危うい? 決済手段別「資金繰りインパクト」徹底比較
    1. 現金・クレジットカード・医療ローン・信販・リースのフローを1枚に並べる
    2. 自費診療の決済設計で“高額メニュー”が売上のエンジンになる構造
    3. 例:内科医院の検査パッケージに分割決済を組み込んだときの月末残高の変化
  4. 「銀行融資は通るのに信販が通らない」クリニックで何が見落とされているのか
    1. 加盟店審査の視点は“金融機関”とは別物という事実
    2. 実際に起きがちなNGパターンと、プロが修正するポイント
    3. 「銀行→決済会社」の順で動くと失敗しやすい理由
  5. 数字が苦手な医師でもできる「月次キャッシュフロー簡易シート」の作り方
    1. 売上・支出・返済・税金・決済手数料を“線表”に落とすステップ
    2. 決済手段を変えたときの“もしも”をシミュレーションするコツ
    3. 資金繰りが悪化する医院の資金繰り表に共通する“3つのクセ”
  6. 「コスト削減」だけでは足りない:資金繰り改善のプロがやっている順番
    1. よくある「支出カットだけ」のコンサルがハマる落とし穴
    2. まず見るべきは「運転資金の厚み」と「入金サイトの長さ」
    3. 決済・融資・補助金・リースを組み合わせた“4本立てファイナンス”発想
  7. 「自費診療を増やしたい医院」がやりがちなNG戦略と、決済で変えるべきポイント
    1. 高額メニューを“メニュー表に載せただけ”で終わらせているケース
    2. 「ローンは嫌われる」という思い込みをデータで分解する
    3. 内科・小児科でも使える「年間プラン・定期検査パック」の設計アイデア
  8. それでも不安なら? 税理士・金融機関・決済のプロに相談する前に準備すべきチェックリスト
    1. プロに聞くときに“恥をかかない”最低限の数字
    2. 「この数字がこうなら、資金繰りは危険サイン」という簡易判定軸
    3. よくある質問と、現場で交わされているメッセージ例
  9. 執筆者紹介

「クリニックは潰れにくい」は半分ウソ? 開業資金と資金繰りの“危ない思い込み”

「銀行融資も通ったし、黒字計画だし、うちは大丈夫」
そう考えて開業した内科・小児科クリニックが、2年目に急にキャッシュ不足で冷や汗をかえる場面を何度も見てきました。損益計算書は黒字、なのに通帳だけがジリジリ痩せていく。このギャップの正体は、開業資金の設計と決済フローのズレです。

想定より危険な「開業資金」の内訳とフローのズレ

教科書では設備資金・開業費用・運転資金に分けますが、現場で効いてくるのは「お金が出ていくタイミング」と「入金タイミング」の噛み合わせです。

区分 中身の例 資金の出入りのクセ
設備資金 医療機器・内装工事 初期にドンと出て、返済は毎月固定
開業費用 広告・求人・法人設立 開業前後に集中して支出、一度きり
運転資金 人件費・家賃・薬剤・診療報酬入金待ち 毎月出ていくが、入金は2か月遅れ

内科中心の保険診療では、診療報酬が2か月後入金になります。開業初月からスタッフ給与・家賃・リース料はフルスイングで出ていくのに、売上キャッシュは後ろからしか来ない。運転資金を薄く見積もると、毎年同じ月に資金の“谷”が生まれ、ボーナス月やインフルエンザシーズンの薬剤仕入れが重なった瞬間、通帳が一気に冷え込みます。

医師・税理士・金融機関でズレが起きるポイント

同じ数字を見ていても、視点がこれだけ違います。

立場 主に見る数字 見落としがちなポイント
医師 売上・利益・患者数 入金サイト・決済手数料・未収
税理士 損益・税金・減価償却 月次キャッシュ残高の波形
金融機関 返済額・担保・自己資金 決済手段とビジネスモデルの相性

誰も「決済と入金タイミング」を主役にしていないため、資金(キャッシュ)の動きだけが置き去りになります。その結果、次のような誤解が生まれます。

  • 「黒字なら資金繰りも問題ないはず」

  • 「クレジットカードさえ入れておけば自費も回る」

  • 「銀行融資さえ通れば、信販の審査も大丈夫」

実務では真逆の現象が起きます。診療報酬の遅延入金と、クレカ決済の手数料・入金サイクルが重なり、売上は伸びているのにキャッシュが増えない医院は珍しくありません。

「借入は少ないほど安全」という古い常識を疑う

借入を嫌って設備資金を短期で返済しようとするケースも危険信号です。返済スピードを上げると、毎月の返済額が重くなり、運転資金のクッションが極端に薄くなります。

  • 返済を急ぎ過ぎる→月々のキャッシュアウトが増える

  • 診療報酬入金は2か月後→資金の“谷”が深くなる

  • 新しい機器投資やスタッフ増員のチャンスで動けない

金融機関は、借入残高そのものより「返済額と月次キャッシュフローのバランス」を気にします。開業時に、決済手段(現金・クレカ・医療ローン・信販・リース)ごとの入金フローを組み合わせておくと、3年後の借り換えや増額融資で評価が大きく変わります。借入を減らすことより、「フローが途切れない設計」こそが、クリニック経営の安全装置になります。

開業1〜3年目の内科・小児科クリニックで起きている資金繰り“あるある”事例

同じ月に現金残高が凹む「毎年同じ谷」の正体

「毎年、なぜか同じ月だけ口座残高がヒヤッとする」
開業1〜3年目の内科・小児科で資金繰り表を並べると、同じ場所に同じ形の“谷”が出ていることが多いです。

典型パターンを分解すると、次のような重なりが見えます。

  • 診療報酬の入金が2ヶ月遅れ

  • 賞与支給月

  • 家賃・リース料・人件費という固定費の集中

例として「6〜7月に谷」が出る医院のフローを簡略化すると、次のようなズレになります。

主な出来事 キャッシュへの影響
4月 インフル後で売上減少 売上ダウン、しかし固定費はそのまま
5月 4月分診療報酬の請求 現金はまだ少ない
6月 4月分診療報酬入金+賞与支給 入金と同時に大口支出で残高が凹む
7月 5月売上が戻るが、入金は9月 目先の現金不足が続く

「黒字なのに資金不足」という違和感の多くは、診療報酬2ヶ月遅れ×賞与×固定費のトリプルパンチから生まれています。
開業時に運転資金を「月商3ヶ月分」で組んだ医院ほど、2年目以降にこの谷が毎年ぶり返しやすい印象があります。

「患者は来ているのに、キャッシュが増えない」医院のフローを分解する

待合室は埋まっているのに、銀行残高は増えない。
このギャップは、「売上」「利益」「キャッシュ」の3つをごちゃ混ぜに見ていると起きます。

視点 何を見ているか 医療現場で起きる勘違い
売上 レセプト枚数、自費の売上高 忙しさ=お金が増えていると錯覚
利益 損益計算書上の黒字/赤字 減価償却で利益は黒字に見える
キャッシュ 口座残高の増減 返済・リース・決済手数料を見落としがち

特に保険診療中心の内科では、次の3点がネックになります。

  • 診療報酬は2ヶ月後入金で、患者が来た月とお金が入る月がズレている

  • 医療機器リース、内装費返済、家賃といった固定費が毎月一定で下がりにくい

  • 自費診療が少なく、「即時キャッシュ化できる売上」が乏しい

ここにクレジットカード決済だけを追加すると、手数料と入金サイトの長さがさらにキャッシュを圧迫します。
売上計画だけでなく、「決済手段別の入金タイミング」を線表に落としておくと、どこでキャッシュが目減りしているかがはっきり見えます。

事例で見る:金融機関が静かに心配しているクリニックの数字

金融機関や医療系に慣れた税理士が「このままだと追加投資は止めた方がいい」と感じるのは、次のような数字が並んだときです。

  • 月末現金残高が月商の1ヶ月分を切っている状態が3ヶ月以上続く

  • 人件費・家賃・リース料など固定費が月商の70%近くまで膨らんでいる

  • 借入返済額が月商の10〜15%を超え、運転資金に回せるキャッシュが薄い

チェック項目 目安 コメント
月末現金残高/月商 1.0倍未満 資金ショートリスクが高いゾーン
固定費比率 60%超 売上減少に耐えにくい構造
年間返済額/年間キャッシュフロー 30%超 借り換え時に慎重に見られる

こうした医院は、「返済はなんとか回っているが、クッションが薄い」状態です。
このまま追加の医療機器投資や分院展開を計画すると、金融機関は診療報酬の入金サイトと決済スキームを細かく確認する傾向があります。

同じ売上でも、現金・クレカ・医療ローン・信販の比率次第でキャッシュの厚みはまるで変わります。
開業2年目頃から資金繰りの違和感が出始めたら、「売上アップ」より先に、フローと決済設計の見直しに手を付けた方が回復は早くなります。

クレカだけでは危うい? 決済手段別「資金繰りインパクト」徹底比較

「うちは保険診療メインだから決済は現金とクレカで十分」
この一言が、2年目以降のキャッシュ不足を静かに育てているケースが少なくありません。

現金・クレジットカード・医療ローン・信販・リースのフローを1枚に並べる

まずは、「同じ100万円の売上・投資」でも入金タイミングと支出タイミングがズレるだけで、資金繰りは別物になる点を押さえてください。

手段 主な用途 クリニックの入金タイミング 手元キャッシュの特徴 リスク・留意点
現金 保険窓口・少額自費 当日 即時キャッシュ化 多額の現金管理リスク
クレカ 自費・物販 1〜2カ月後 売上は立つが入金遅れ 手数料・チャージバック
医療ローン 高額自費 数日〜1カ月 一括でまとまった入金 審査否決で成約機会ロス
信販分割 高額自費・年間プラン 早期一括入金 患者は分割、医院は即回収 加盟店審査が厳しめ
リース 検査機器・内装一部 期間中毎月支出 一括購入を回避 総支払額は高くなりやすい

現場の資金繰り表を並べると、「現金・信販・リースをうまく組み合わせている医院ほど、月末残高の谷が浅い」という傾向が明確です。クレカ単体頼みだと、売上は積み上がるのに、銀行残高グラフが後ろにずれてついてくる構造になります。

自費診療の決済設計で“高額メニュー”が売上のエンジンになる構造

高額メニューは「あるだけ」では回りません。
ポイントは、患者の家計フローと医院のキャッシュフローを同時に設計することです。

  • 患者側の家計

    • ボーナス月以外に30万円一括は厳しい
    • 3〜24回程度の分割なら心理的負担が下がる
  • 医院側のフロー

    • 30万円×10件を信販一括入金にすれば、数十万円〜数百万円の運転資金を前倒し確保
    • 手数料は「集客コスト」と割り切ると、融資に頼らない運転資金調達に近い効果

実務上、「クレカのみ導入した医院」と「クレカ+医療ローン/信販を入れた医院」では、同じ患者数でも高額自費の成約件数が2〜3割違うと指摘されることがあります。表面の売上データだけ見ていると、この「取りこぼし」は見えません。

例:内科医院の検査パッケージに分割決済を組み込んだときの月末残高の変化

内科・小児科でも、生活習慣病フォローや人間ドック的な検査パックを年間メニュー化すると、資金繰りの安定装置になります。

イメージしやすいよう、月10件・1件あたり10万円の検査パッケージを想定します(売上100万円)。

パターン 決済手段 クリニック入金 月末キャッシュの印象
A 現金一括のみ その場で100万円 成約数は伸びにくいがキャッシュは太い
B クレカ一括のみ 1〜2カ月後に100万円 売上は見えるが、当月の現金は薄い
C クレカ+信販分割 当月に70〜90万円程度 成約数アップ+資金の前倒し回収

実務でよく見るのはBパターンで、「患者は来ているのに、口座残高が増えない」という相談です。
Cパターンのように信販分割を組み込むだけで、月末残高グラフの“谷”が1〜2カ月前倒しで埋まり、ボーナス月やインフルエンザ流行時の一時的な負担にも耐えやすくなるケースが多く見られます。

開業1〜3年目は、「売上」ではなく「キャッシュのスピード」を決済設計でどうチューニングするかが、資金繰り安定の分かれ目になります。

「銀行融資は通るのに信販が通らない」クリニックで何が見落とされているのか

「銀行も公庫も通ったのに、信販だけ落ちた」
ここでつまずくクリニックは、決算書よりも“ビジネスの設計図”を見られていることに気づいていません。運転資金や診療報酬だけを眺めていると、決済の審査ロジックとズレてしまいます。

加盟店審査の視点は“金融機関”とは別物という事実

銀行は「返済能力」と「担保・保証」が軸ですが、信販会社は「トラブルが起きた時に誰がどこまで責任を負えるか」を細かく見ます。医療だから安全、という前提は一切通用しません。

上手くいく医院と落ちる医院の違いを、現場で使われる軸で整理するとこうなります。

項目 銀行・公庫の主眼 信販・医療ローンの主眼
関心事 返済可能性・法人格・自己資金 契約トラブル・キャンセルリスク
見る資料 事業計画・資金繰り・担保 申込書面・説明資料・同意書
重視する数字 売上予測・利益・返済比率 クレーム率・キャンセル率・単価構成
典型NG 借入過少で運転資金不足 契約条件が曖昧・自費説明が不十分

「医療=低リスク」ではなく、「高額役務ビジネス=継続的なクレームリスク」というレンズで見られていると考えた方が近いです。

実際に起きがちなNGパターンと、プロが修正するポイント

審査落ちの相談を分解すると、数字よりも“紙とルール”の設計ミスが目立ちます。典型例と修正ポイントは次の通りです。

  • 自費メニューの説明が口頭ベース

    • 修正: 事前説明書・料金表・治療計画書を文書化し、署名欄を設ける
  • キャンセル・中途解約の条件がない

    • 修正: 日数・進行度に応じた返金ルールを明文化し、患者にも渡す
  • 医療ローンとクレカ決済を“同じノリ”で扱っている

    • 修正: 回数・上限・対象メニューを分け、重複契約を避ける運用ルールを作る
  • 苦情対応フローが「その場対応」のみ

    • 修正: 誰が・いつまでに・どう記録するかを決め、台帳管理する

審査担当者は、「トラブルが起きた時に、クリニックがどれだけコントロールしているか」を読み解きます。
ここが整っていないと、売上や利益が良くても「リスク管理が弱い」と判断されやすくなります。

「銀行→決済会社」の順で動くと失敗しやすい理由

開業医がやりがちなのが、「まず融資枠を押さえる → その後に決済会社を選ぶ」という順番です。これが危ういのは、資金調達と決済スキームがバラバラに設計されるからです。

  • 銀行は「設備投資と運転資金」の返済計画だけを前提に話が進む

  • 決済会社は「自費メニューや高額検査の販売設計」を前提に審査する

  • その結果、事業計画書と実際のメニュー設計がかみ合わず、信販側から見ると「計画が粗い医院」に見えてしまう

実務的には、次の順番にすると資金繰りと審査の両方がスムーズに進みます。

  1. 自費・高額検査・年間プランのメニュー設計と決済パターンを先に固める
  2. それを前提に、月次キャッシュフロー表を作り、入金タイミングを見える化
  3. そのフローを添えて、銀行に「決済込みの事業計画」として相談する
  4. 並行して、決済会社には「説明資料・契約書・キャンセル規定」をパッケージで提示する

この順番に変えるだけで、診療報酬の2ヶ月遅れや毎年同じ月にできる資金繰りの谷を、決済と融資の両方からならしていく設計が可能になります。銀行に対しても「売上」ではなく「キャッシュフロー」で語れる医院は、3年後の借換や増額の相談が驚くほど通りやすくなります。

数字が苦手な医師でもできる「月次キャッシュフロー簡易シート」の作り方

「黒字のはずなのに、通帳だけいつも心細い」。このモヤモヤは、才能でも度胸でもなく、1枚の“線表”でかなり解消できます。

売上・支出・返済・税金・決済手数料を“線表”に落とすステップ

まずはExcelかスプレッドシートを開き、細かい勘定科目は全部ムシして大枠だけを並べます。現場で数字が苦手な医師にも続けてもらえた型は、次のようなシンプルなものです。

  1. 行=項目を7〜9本に絞る
  2. 列=月ごとの「現金が動く日」を並べる
  3. 「売上が入る日」「銀行から出ていく日」だけを線で追う

下のような形をベースにします。

区分 具体例 入金/支出のタイミング
保険診療売上 診療報酬 2ヶ月後入金
自費・物販 ワクチン・検査パックなど 即日〜翌営業日
決済手数料 クレカ・信販 売上入金時に控除
固定費 家賃・人件費・リース料 毎月決まった日
変動費 医薬品・検査委託 末締め翌月払い
返済 銀行融資 毎月返済日固定
税金・社保 消費税・源泉・年金 月次/年次で集中

ポイントは、損益計算書ではなく「通帳にどう映るか」だけを見ることです。
特に内科・小児科は診療報酬入金が2ヶ月遅れるため、ボーナス月・高額な医療機器のリース開始月と重なるところに毎年同じ“谷”ができます。この谷がどの月か、線表で先に炙り出しておきます。

決済手段を変えたときの“もしも”をシミュレーションするコツ

決済の設計を変えると、損益よりも先に「現金の動き方」が変わります。
シミュレーションのコツは、難しい計算より「入金のズレだけを差し替える」ことです。

  1. ベースとなるシートをコピーして3枚用意する

    • Aパターン: 現金+クレカのみ
    • Bパターン: クレカ+医療ローン
    • Cパターン: クレカ+信販+リース活用
  2. 自費売上の行だけ、入金タイミングを変える

    • クレカ: 翌月入金、上限による“取りこぼし”が出やすい
    • 医療ローン・信販: 数%の手数料と引き換えに、高額メニューが一括で医院側に入る
  3. 各パターンで「月末残高」が最低になる月をチェックする

現場の税理士や金融機関がよくやるのは、「最も残高が薄くなる月の数字」だけを3パターンで比較することです。
自費の分割決済を組み込むと、その月だけで見ると利益はほぼ変わらないのに、残高が給料1〜2ヶ月分ぶん厚くなるケースが少なくありません。

資金繰りが悪化する医院の資金繰り表に共通する“3つのクセ”

実務で資金繰り表を何十件と見ていると、「危ない医院」のシートは驚くほど似た形になります。特に内科・小児科で多いのは次の3つです。

  1. 固定費の割合が高すぎる

    • 家賃・人件費・リース料が月商の6割を超えると、インフルエンザシーズン以外の月に一気に苦しくなります。
  2. 支払日と入金日が同じ週に集中している

    • 診療報酬入金の翌日に融資返済、その翌週に家賃とリース…と「自分で谷を作っている」パターン。支払日をズラすだけで残高のグラフがなだらかになります。
  3. 即時キャッシュ化できる売上が少ない

    • 保険診療だけに依存し、自費・物販・年間プランがほぼゼロ。
    • 高額検査や定期フォローを分割決済で「前倒し入金」に変えるだけで、運転資金の不足をかなり緩和できます。

この3つのクセを線表で“見える化”しておくと、銀行に追加融資を相談する前に、決済とフローの組み替えだけで持ちこたえられるかを冷静に判断しやすくなります。数字アレルギーの医師ほど、最初の1枚を作った瞬間から経営の景色が変わります。

「コスト削減」だけでは足りない:資金繰り改善のプロがやっている順番

「電気代を下げても、銀行残高は救えない」
開業3年目でヒヤッとする医院は、ほぼ例外なく“順番”を間違えています。

よくある「支出カットだけ」のコンサルがハマる落とし穴

資金繰りが苦しくなると、まず言われがちなのが「コスト削減」。しかし、内科・小児科クリニックの支出構造を分解すると、動かせる部分は意外なほど小さいです。

区分 内容 現場での動かしやすさ 資金繰りインパクト
固定費 家賃・人件費・リース ほぼ固定、短期変更は困難 谷を深くしている主犯
準固定費 外注・システム・保守 見直し余地はあるが限界あり 効果は「じわっ」と程度
変動費 医薬品・消耗品 売上に連動、削ると診療に影響 無理に削ると売上減リスク

保険診療中心の医院で、電気代やコピー代を1〜2割削っても、診療報酬2ヶ月後入金によるキャッシュの“谷”はほぼ形が変わらないケースが多いです。
資金繰りの悪化は「額の問題」というより「タイミングと厚みの問題」で起きているからです。

まず見るべきは「運転資金の厚み」と「入金サイトの長さ」

プロが最初に確認するのは、支出削減ではなく次の2点です。

  • 月商に対して、現金・預金が何ヶ月分あるか(運転資金の厚み)

  • 保険診療、自費、物販それぞれの入金タイミング(入金サイト)の長さ

ざっくりした目安として、内科・小児科の単院なら月商2〜3ヶ月分の運転資金が1つの安全ラインとされます。
現場でよく見る危ないパターンは、開業融資で設備資金を短期返済にし過ぎて、運転資金が月商1ヶ月分を割り込んでいるケースです。

チェック項目 安全〜普通 危険シグナル
運転資金残高(月商比) 2〜3ヶ月分 1ヶ月分未満
保険診療依存度 売上の60〜70% 90%以上
支払サイト vs 入金サイト 支払≦入金 支払が先行

毎年同じ月に現金残高が落ち込む医院の資金繰り表を見ると、「賞与月+診療報酬入金のズレ+リース料」が重なり、運転資金の薄さが一気に露呈していることが多くあります。

決済・融資・補助金・リースを組み合わせた“4本立てファイナンス”発想

支出を削る前に、キャッシュインとキャッシュアウトの設計を組み替える方が早く、ダメージも小さいことが少なくありません。そのとき使うのが「4本立てファイナンス」の発想です。

ファイナンス手段 役割 資金繰りへの効き方
銀行融資(設備・運転資金) 初期投資とクッション確保 返済期間設計が肝。短期完済は自爆リスク
決済(クレカ・医療ローン・信販) 自費・物販の即時キャッシュ化 高額メニューの成約率と入金タイミングを同時に改善
補助金・助成金 設備・IT・人材投資の一部回収 タイムラグがあるため「もらえたら運が良い」ではなく計画に組み込む
リース・割賦 医療機器の支出平準化 一括購入より手残りを厚くし、資金不足の谷を浅くする

開業時に「借入は最小に」と考え、設備を短期借入で組んでしまうと、運転資金不足+診療報酬遅延で2年目から急に苦しくなりがちです。
逆に、決済スキームをあらかじめ設計し、自費診療の一部を医療ローンや信販で即時入金にしておく医院では、同じ売上規模でも月末残高のグラフがなだらかになります。

資金繰り改善の順番を整理すると、次の通りです。

  1. 現金残高と入金サイトの「見える化」(月次キャッシュフロー表)
  2. 運転資金の厚み確保(返済期間の見直し・追加融資の要否検討)
  3. 決済手段とリースでキャッシュのタイミングを再設計
  4. そのうえで、削っても診療に影響しないコストの精査

「どこを削るか」より「どう回すか」。ここを押さえた医院ほど、開業3年目の“資金ショック”を静かに乗り越えています。

「自費診療を増やしたい医院」がやりがちなNG戦略と、決済で変えるべきポイント

「自費を増やしたい」と言いながら、決済設計で自分からブレーキを踏んでいる医院は少なくない。診療報酬改定に振り回されないための“第2のエンジン”にするなら、メニュー設計と同じ熱量で「支払いの設計」を組む必要がある。

高額メニューを“メニュー表に載せただけ”で終わらせているケース

高額自費が売れない医院の共通点は、内容よりも「支払い動線」が止まっていることにある。よくあるパターンを整理すると次の通り。

状況 医院側の認識 実際に起きていること
クレカのみ導入 「カードOKだから十分」 患者の利用枠・分割制限で成約を断念し、売上の取りこぼしが見えない形で蓄積
現金・振込のみ 「トラブルを避けたい」 そもそも検討の土俵に上がらず、高額メニューは“飾りメニュー”化
決済の案内をしない 「聞かれたら説明すれば良い」 患者は遠慮して聞かず、「お金の不安」で静かに見送る

特に内科・小児科でのドック、高額検査パック、自由診療の年間フォローは、1件あたりの金額が10万円を超えると「一括払い前提」の時点で脱落が増える。現場感覚としては、以下をセットで用意した瞬間に成約率が変わりやすい。

  • クレジットカード一括・分割

  • 医療ローンまたは信販(36回・60回など)

  • 事前一括払いの割引(キャッシュ前倒し用)

高額メニューは「内容×支払い方」がセットになって初めて売上のエンジンになる。

「ローンは嫌われる」という思い込みをデータで分解する

医師側が強く持ちがちなのが「うちの患者はローンなんて嫌がる」という前提だが、各種アンケートや決済会社の成約データを見ると、もう少し立体的な姿が浮かぶ。

  • 「興味はあるが、家計的に一括は難しい」が一定割合存在

  • 「ローンは嫌」というより「よく分からないものは怖い」という抵抗感

  • 分割できると分かった時点で、検討テーブルに乗るケースが増える

つまり問題は「ローンそのもの」ではなく、「説明のされ方」と「透明性」であることが多い。実務で安心感を出す際のポイントは次の通り。

  • 返済総額・金利・期間を紙1枚で見せる

  • 医院側のインセンティブ(キックバックなど)があれば明示する

  • キャンセルポリシーと途中解約時の扱いを契約書で明文化

信販会社の加盟店審査も、ここが曖昧な医院ほど落ちやすい。自費メニューの説明資料と契約書を「審査担当者の目線」で整えることが、資金繰りとコンプライアンスの両面で効いてくる。

内科・小児科でも使える「年間プラン・定期検査パック」の設計アイデア

自費=美容という発想に縛られる必要はない。内科・小児科でも、慢性疾患管理や予防医療を軸に、キャッシュフローを安定させる自費メニューを設計できる。

メニュー例 対象 決済設計のポイント
生活習慣病年間フォロープラン 内科 年間一括払い+月次分割決済を併用し、医院側はキャッシュ前倒しを確保
小児定期フォローパック 小児科 乳幼児健診+予防接種をセット化し、兄弟割・分割決済で家計負担を平準化
年1回プレミアム健診 内科 高額検査をまとめ、医療ローン・信販を組み合わせて成約率を底上げ

設計時に押さえるべきは「患者の収入サイクル」と「診療報酬の入金サイクル」を重ねて見ることだ。例えばボーナス月に一括プランの提案を集中させ、通常月は信販の分割をメインにするだけでも、銀行口座の残高グラフはなめらかになる。

自費を増やす狙いは、単に売上を増やすことではなく、「診療報酬の2カ月後入金に振り回されない運転資金の厚み」を作ることにある。決済設計まで踏み込めば、高額メニューは“絵に描いた餅”ではなく、資金繰りを支える現金の流れに変わっていく。

それでも不安なら? 税理士・金融機関・決済のプロに相談する前に準備すべきチェックリスト

プロに聞くときに“恥をかかない”最低限の数字

専門家に相談するとき、手ぶらで行くと「話がフワッとしたまま終わる」ことが多いです。開業1〜3年目の内科・小児科なら、次の数字だけ押さえておけば十分戦えます。

まず、この4セットを1枚にまとめておくと会話が一気に具体化します。

セット 中身 ポイント
①直近実績 過去12ヶ月の売上・支出・月末現金残高 「毎年同じ谷」がないかを一目で確認
②固定費 家賃、人件費、リース料、ローン返済 クリニックが毎月必ず払う“ベースコスト”
③借入一覧 借入元、残高、金利、返済期間、毎月返済額 銀行側が最初に見る「返済能力」の土台
④決済・入金 現金、クレカ、医療ローン、診療報酬入金サイト キャッシュインの“スピードマップ”

準備のコツは、会計ソフトの試算表よりも「月次の現金残高の推移」を優先することです。損益より財布の中身の動きの方が、金融機関も決済会社も知りたがります。

チェック項目の例を挙げます。

  • 月別売上と診療報酬の入金月を並べた一覧

  • 各決済手段の入金サイクルと手数料

  • 設備投資に使った借入の条件(返済期間・金利)

  • スタッフの賞与・更新料・大きな機器支出が発生する月

ここまで揃っていると、「話が早い先生」として扱われ、提案の質も明らかに変わります。

「この数字がこうなら、資金繰りは危険サイン」という簡易判定軸

現場で税理士や金融機関がよく使うのは、難しい指標ではなくシンプルな“赤信号ライン”です。最低限、次の3つだけは自院の数字を当てはめて確認しておきたいところです。

指標 計算イメージ 危険ラインの目安 見えているリスク
月末現金残高 ÷ 月商 銀行口座残高 ÷ 1ヶ月の売上 1未満 運転資金1ヶ月分もない状態
固定費 ÷ 売上 家賃+人件費+リースなど ÷ 売上 60%超 売上が少し落ちるだけで赤字化
返済額 ÷ キャッシュフロー 毎月返済 ÷「売上−支出」 40%超 借換えや追加融資が通りにくい

金融機関の担当者が静かに心配するのは、「返済はできているが、現金のクッションが薄い」クリニックです。特に要注意なのは次のパターンです。

  • 毎年同じ月だけ現金残高がマイナス寸前まで落ちる

  • ボーナス月や医療機器のリース料更新月に谷が深くなる

  • 自費や物販など即時キャッシュになる売上がほとんどない

この“谷”は、診療報酬の2ヶ月遅れ入金と固定費の支払い日が重なった結果として、資金繰り表に毎年同じ形で現れます。ここを決済スキームと運転資金でどう埋めるかが、プロが真っ先に見るポイントです。

よくある質問と、現場で交わされているメッセージ例

開業1〜3年目の院長から、現場で本当によく出る質問を整理します。どれも「聞いた瞬間に方向性が分かれる」重要な論点です。

Q1. 運転資金は何ヶ月分あれば安心ですか?
A. 保険診療中心の内科・小児科なら、最低3ヶ月分、できれば6ヶ月分の固定費+返済額を意識するケースが多いです。インフルエンザ流行や機器トラブルで売上が乱高下しても、スタッフの人件費と家賃を落ち着いて支払える厚みを確保しておく狙いがあります。

Q2. クレカと医療ローン、どちらを優先して導入すべきですか?
A. 自費比率を高めたいなら、クレカ「だけ」では不十分になる場面が目立ちます。高額メニューほど「カード上限」「分割回数の制限」で患者が諦めてしまうため、医療ローンや信販を併用し、分割前提で提案できる形にしておく方が売上もキャッシュも安定しやすくなります。

Q3. どこから相談すべきか分かりません。税理士?銀行?決済会社?
A. 現場での動きやすさで言うと、次の順番が無理がありません。

    1. 医療に明るい税理士や会計事務所で「資金繰りの見える化」
    1. そのシートを持って、銀行や公庫に運転資金と返済条件の相談
    1. 並行して、決済会社に自費メニューと契約条件を前提にした審査相談

とくに重要なのは、「銀行融資が決まってから決済を考える」のではなく、決済とキャッシュフローの設計を先に作り、その数字を持って金融機関に行くことです。これだけで、3年後の借り換えのしやすさや分院展開の選択肢が大きく変わってきます。

執筆者紹介

主要領域はクリニックを含む高額医療・自費サービスの決済設計と資金繰り改善。本記事は、税理士・金融機関・決済会社の公開資料と現場ヒアリングで得られた一次情報を抽象化し、医師が自院のフローにそのまま落とし込めるレベルまで分解した実務ロジックとして構成しています。