はじめに
会社を登記した瞬間から、「新設法人なら補助金が使えるはずだ」と信じて動き始める人は多いです。ところが現場を見ると、同じように検索し、同じように説明会資料を読み込んでいるのに、数百万円の補助金を手にする法人と、時間と労力だけ失って一円も入ってこない法人にはっきり分かれています。
分岐点になっているのは、センスでも運でもなく、たった数個の実務判断です。
どの制度を狙うかより前に、
- 「創業何年以内」のカウントをどう解釈するか
- 登記日と営業開始日のどちらをベースに考えるか
- 後払い前提で、いつ手元の現金が増えるのか
ここを外した瞬間、どれだけ頑張って申請書を書いても、「要件外」「計画性不足」で静かに落ちていきます。
さらに厄介なのは、ネット上の「新設法人 補助金」の情報が、制度紹介と成功イメージだけで終わっていることです。
実際に相談現場で頻発しているのは、
- 「この補助金、ウチも対象ですよね?」と聞かれ、要件の一行目でアウトになるケース
- 「とりあえず申請だけ出したい」と言われ、資金繰りを崩すリスクしかない状態なケース
- 採択されたのに、実績報告とキャッシュフロー管理で本業が止まるケース
といった、「使い方を間違えたことで損をする新設法人」です。
この記事は、そうした見えない損失を避けつつ、本当に狙う価値のある補助金だけを取りにいくための実務マニュアルです。
制度名の羅列ではなく、
- あなたの新設法人がどのタイプか
- そのタイプで現実的に狙える補助金ゾーン
- 申請書で落ちる会社に共通する構成
- 公募要領にはほぼ書かれないグレーな論点
- 採択後に「お金が減る」展開を防ぐ段取り
を、相談現場で実際に問題になっている論点に沿って分解します。
この記事を読み終えるころには、「とりあえず補助金を探す」状態から、「今年はどの制度を、どのスケジュールで取りにいくか」「あえて見送る制度はどれか」まで腹を決めた資金計画を描けるはずです。
まずは、この記事全体で手に入るものを俯瞰しておいてください。
| セクション | 読者が手にする具体的な武器(実利) | 解決される本質的な課題 |
|---|---|---|
| 前半(思い込みの解体〜タイプ別ゾーン整理〜現場のやり取り〜落ちる申請書の構造) | 自社の立ち位置に応じて「狙うべき補助金」と「今は捨てる補助金」を切り分ける判断軸 | 情報が多すぎて「結局ウチは何を申し込めばいいのか」が決まらない状態 |
| 後半(グレー論点〜スケジュールの罠〜交付後トラブル〜専門家との組み方〜挑むべきかの最終判断) | スケジュール・資金繰り・専門家活用まで含め、補助金で資金を増やしつつ本業も止めない実行プラン | 採択率だけを追いかけ、採択後に現金と時間を失う構造から抜けられない状態 |
次の章から、「新設法人なら補助金が出る」という前提そのものを解体しながら、あなたの会社が踏むべき具体的なステップを逆算していきます。
「新設法人なら補助金が出る」は半分ウソ?まず疑うべき3つの思い込み
「会社を作れば何かしらお金がもらえるはず」と思い込んで動き出すと、創業1年以内でも平気で全滅します。
マネーフォワードの起業家調査では、設立経験者の多くが「資金調達」と「制度の複雑さ」に悩んだと答えています。
つまり今の時点でモヤモヤしている感覚は正常で、制度側が分かりにくいのが実情です。
そのうえで、新設法人が最初に壊したほうがいいのが次の3つの思い込みです。
「創業ならとりあえず何かもらえる」の罠
創業期向けの補助金は、たしかに国・自治体あわせて数多く存在します。
ただし「創業だから歓迎」ではなく、「創業でも採算の筋道が立っている先だけを拾う」という設計です。
よくある勘違いは次の通りです。
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創業しただけで加点されると思っている
-
赤字前提のプランでも「夢」があれば通ると思っている
-
とりあえず設備や広告にお金を使えば後から補填されると思っている
現場で公募要領を読むと、「創業〇年以内」はあくまで入場券でしかなく、その先に「市場性」「収益性」「実現可能性」の審査項目がびっしり並びます。
ここを読み飛ばして申請しても、採択率は限りなくゼロに近いままです。
助成金と補助金をごっちゃにした瞬間に話が噛み合わなくなる理由
相談現場で一番会話がかみ合わなくなるのが、「助成金なのか補助金なのか」を分けないまま話しているケースです。
freeeや千代田税理士法人の解説も、まずここを整理することに紙面を割いています。
種類ごとのざっくりした違いを整理するとこうなります。
| 項目 | 補助金 | 助成金 |
|---|---|---|
| 主な所管 | 経済産業省系・中小機構・自治体 | 厚労省系・労働局 |
| 公募のタイミング | 期間限定の「公募制」 | 通年受付が多い |
| 審査 | 事業計画書で選抜 | 要件を満たせば原則支給 |
| 目的 | 設備投資・新事業 | 雇用・働き方の改善 |
「うちは従業員ゼロだけど、助成金を使って設備を買いたい」といった相談が来る背景には、この混同があります。
最初に「人に関する制度を指しているのか、事業投資に関する制度を指しているのか」を切り分けないと、いつまでもピントが合いません。
ネットの「最新情報」だけ追っても取りこぼすカラクリ
「2025年最新」「今年度版」といったまとめ記事を追いかけても、なぜか自分は取り残される起業家がいます。
原因は、次の3つを同時に見ていないからです。
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創業から何年目かのカウント
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公募スケジュールの微妙な変更
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自治体ごとの条件差
中小機構の新事業進出補助金では、第1回公募の締切が途中で延長された記録があります。
表向きは事業者に優しい延長ですが、現場では「社内で一度締めていたスケジュールを組み替える」「追加で応募者が増え、競争が激化する」といった影響が出ます。
さらに、freeeの解説が触れているように、同じ「家賃補助」「創業支援」を名乗る制度でも、松本市と港区では金額も要件もまったく別物です。
検索結果の上位に出る「代表例」だけで判断すると、自社の所在地ではそもそも募集していない、というオチも珍しくありません。
新設法人がやるべきなのは、「キーワードで出てきた制度名を鵜呑みにする」のではなく、「自社の創業年数・所在地・今期の投資計画」と三点セットで照らし合わせることです。
ここをサボると、「情報は追っていたのに、申し込める年はもう過ぎていた」という、最ももったいないパターンに陥ります。
あなたの会社はどのタイプ?新設法人3パターン別「狙える補助金ゾーン」
新設法人が補助金で結果を出せるかは、「どの制度を狙うか」以前に自社のタイプを正しくラベリングできるかでほぼ決まります。資金の厚み、事業計画の組み方、創業のタイミングで狙い目ゾーンがまるで変わるからです。
まずは次の3タイプのどれに近いかをはっきりさせておきましょう。
| タイプ | 資金状況・投資計画 | 狙いやすいゾーンの方向性 |
|---|---|---|
| 自己資金ギリギリ型 | 当面の運転資金が不安 | 少額・小規模・現金化が比較的早い制度、公庫融資との組合せ |
| 設備投資ガッツリ型 | すでに大きな投資計画あり | 設備・IT導入・販路開拓系の中〜大型補助事業 |
| 個人事業→法人化型 | 個人としての実績あり | 「創業何年以内」の起算日に要注意の創業・承継系制度 |
自己資金ギリギリ型:少額でも“現金化が早い”制度を優先すべき理由
売上の見込みはあるが、今の財布(手元資金)が心もとないタイプです。ここで数百万円の補助金に一発勝負をかけると、審査期間中に資金ショートしかねません。
このタイプがまず押さえるポイントは3つです。
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後払いが前提であることを忘れない
千代田税理士法人も指摘している通り、多くの補助金は立替払い後の精算方式です。自己資金ギリギリだと「採択されたのに支払えない」という本末転倒が起きます。
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少額でもキャッシュインまでが比較的短い制度を優先
小規模事業者向けの販路開拓支援や、自治体の創業支援制度の中には、採択から支給までのリードタイムが比較的短いものがあります。金額よりも「資金繰りの谷を埋められるか」を基準に選びます。
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補助金と創業融資をセットで設計する
日本政策金融公庫などの融資制度で当面の運転資金を確保し、補助金は設備やIT導入、広告の一部を補う役割にとどめると、資金計画が崩れにくくなります。
このタイプは「成功事例の金額」に目を奪われると危険です。銀行口座の残高を守ることが最優先という前提で、申請の有無を決めていく方が堅実です。
設備投資ガッツリ型:今期の投資計画と補助金の締切をどう噛み合わせるか
新工場、店舗改装、業務システム導入など、開業初期からまとまった設備投資を予定している法人がこのタイプです。狙える補助金の枠は広い一方で、スケジュール設計を外すと一気に不採算化します。
押さえるべき実務ポイントは次の通りです。
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「契約・発注の前」が大前提
中小機構を含む多くの公募要領で、「交付決定前に発注したものは補助対象外」と明記されています。オープン時期だけ決めて、補助事業期間を逆算せずに発注すると、一気に自己負担になります。
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年度と創業年数要件の“ダブル制限”
設備系の補助金でも「創業○年以内」の要件が付くケースがあります。年度をまたぐと、同じ事業内容でも翌年は対象外になる場合があるため、登記日と公募スケジュールを同じカレンダー上に並べて検討する必要があります。
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投資計画書をそのまま申請書にしない
企業内部の投資計画は「どれだけ攻めるか」が主眼ですが、補助金の審査は「事業の継続性」と「地域経済への波及」が主な評価軸です。売上予測グラフを元気に描きすぎると、却って数字の信頼性を疑われます。
このタイプは、事業計画書と補助金申請書の“二枚看板”を意図的に描き分けることが採択率を押し上げる鍵になります。
個人事業→法人化型:「創業何年以内」のカウントでつまずく典型パターン
最後に、個人事業主として数年活動した後に法人を設立するケースです。売上実績や顧客基盤がある分、補助金でも有利に見えますが、一番トラブルになりやすいタイプでもあります。
理由はシンプルで、「創業何年以内」をどこからカウントするかが制度ごとに違うからです。
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個人事業の開業届提出日を起点とする制度
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法人の登記日を起点とする制度
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事業承継や組織変更として別枠で扱う制度
公募要領やQ&Aにはこの点が細かく書かれているケースが多く、中小機構の公募資料でも、組織変更の扱いが別項目で説明されています。ここを読み飛ばすと、「創業1年未満だと思っていたのに、実は対象外」という事態になりがちです。
このタイプがやるべきことは次の3つです。
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税務署への開業届の控え、法人の登記簿謄本を並べて「事業の歴史」を時系列で整理する
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個人期の売上・経費の実績と、法人移行後の計画を一枚の表にまとめる
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補助金の相談窓口や支援機関に、「創業起算日」を必ず確認してから申請準備を始める
個人→法人化型は、うまく設計すれば実績を武器にできる数少ない新設法人です。創業年数のカウントを曖昧にしたまま突っ込まず、起算日のルールを先に押さえることが補助金活用のスタートラインになります。
相談現場で本当によく来る「LINE/メールのやり取り」を丸裸にする
Case1:「この補助金、ウチも対象ですよね?」→要件の読み飛ばしあるある
起業したての社長から一番届きやすいメッセージがこれだ。
「新事業進出補助金のページ見たんですけど、製造業向けって書いてあるし、ウチもモノを作る会社なので対象ですよね?」
ここで必ず押さえるべきチェックポイントは、業種ラベルではなく要件の“行間”だ。
中小機構の公募要領を見ると、単に「製造業」ではなく、次のような視点で細かく定義されている。
| 読み飛ばされやすい要件 | 何が問題になるか | プロが必ず確認する点 |
|---|---|---|
| 創業何年以内か | 登記からの年数とズレている | 個人事業からの法人化時期も合わせて確認 |
| 売上規模・資本金 | 規模要件オーバー | 直近の試算表、公庫の資料で裏取り |
| 事業の目的・分野 | 「新事業」か単なる延長か | 計画書の中で新規性をどう書けるか |
freeeやマネーフォワードの解説でも繰り返し触れられているが、「対象」「要件」というキーワードをタイトルだけ見て判断するのは資金調達上の致命傷になりやすい。
実務では、公募要領、QA、自治体の解説ページまでセットで読み込んでから「対象かもしれない」という判定に進む方が安全だ。
Case2:「とりあえず申請だけ出してから考えたいんですが…」へのプロの返し方
次に多いのがこのパターン。
「まだ事業計画は固まっていないんですが、締切が近いので、とりあえず申請だけ出してから細かいことは考えたいです」
ここでプロがまず伝えるのは、補助金は“事業の結果”ではなく“事業の約束”に対して出るお金だという点だ。
千代田税理士法人のコラムにもある通り、多くの補助金は後払いで、自己資金や融資で先に支出する必要がある。ということは、「とりあえず」で出した計画がそのまま契約書のように効いてくる。
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計画書で約束した投資額を下回る
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書き方が曖昧で補助対象経費の範囲がブレる
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実績報告のときに「計画と違う」と判断され補助額カット
マネーフォワードの起業家調査では、設立経験者が「資金調達」と同じくらい「書類作成の負担」で悩んでいると報告されている。
プロ視点では「申請書は提出がゴールではなく、3年分の経営行動の型を固定する契約書だ」と伝え、以下の順番を提案することが多い。
- 事業の目的・売上モデル・必要な設備をざっくり整理
- 創業融資と合わせた資金繰り表を作成
- そのうえで合う制度を選び、申請書に落とし込む
この順番を踏まえても締切に間に合わないなら、その公募は一度見送る判断も十分合理的だ。
Case3:「融資も補助金も同時に進めたい」の順番を間違えたときの落とし穴
「日本政策金融公庫の融資と、補助金申請を同時に進めれば、一気に資金調達できますよね?」
この発想自体は前向きだが、順番を間違えるとキャッシュが干上がる。
千代田税理士法人が指摘するように、補助金は後払いが原則で、交付決定から入金までタイムラグがある。公募スケジュールも中小機構の例のように途中で締切延長が入るケースがあり、当初イメージしていた年度内入金がずれ込むこともある。
そこで重要になるのが、次の整理だ。
| 項目 | 創業融資 | 補助金 |
|---|---|---|
| 資金が入るタイミング | 実行決定後すぐ | 実績報告・検査後 |
| 主な目的 | 運転資金・設備の立ち上げ | 投資の一部補填、信用向上 |
| 審査の軸 | 返済能力・事業の継続性 | 政策目的との合致・新規性 |
| 新設法人の優先順位 | 高い | 資金繰りに余裕があれば挑戦 |
創業1年未満の新設法人では、「まず融資で最低限の運転資金と初期投資を固め、そのなかで補助金対象になりそうな部分を抜き出す」という流れが、資金ショートを防ぎやすい。
公庫の面談でも、補助金に依存しない資金計画かどうかは細かく見られるため、「補助金が通ったら追加投資する」という位置づけにしておくと、融資・補助金の両方から評価されやすくなる。
書いても通らない申請書の共通点:「うまくいきそう」に見えて落ちる構成
「見た目はキレイで、“伸びそうな事業”っぽいのに、不思議なくらい採択されない。」現場で山ほど見てきた申請書は、例外なく同じクセを持っています。ポイントは中身の薄さではなく、“薄さがバレる書き方”をしているかどうかです。
審査側が一瞬で「あ、テンプレだな」と見抜く言い回し
審査の現場では、1件にかけられる時間は数分レベルです。その数分で落ちる申請書に共通するのが、使い回し感の強いフレーズです。
代表的なNGパターンを整理します。
| よくあるNGフレーズ | なぜ「テンプレ扱い」されるか | 改善のヒント |
|---|---|---|
| 「地域経済の活性化に貢献します」 | どの事業にも当てはまり、事業内容と紐づかない | 「◯◯市の製造業30社に対し、△△のIT導入支援を行う」のように対象と手段を具体化 |
| 「新たな雇用を創出します」 | 雇用人数・時期・職種が書かれていない | 「3年で正社員2名、パート1名を採用」まで落とし込む |
| 「中小企業の生産性向上に寄与します」 | 公募要領の文言そのままに近い | 自社のボトルネックと改善指標(時間短縮率など)を書く |
freeeや中小機構の公募要領でも「申請書は事業の具体性が重要」と明記されていますが、落ちる申請書は自社の事業ではなく制度のキャッチコピーを書いている状態になりがちです。
売上予測グラフが“元気すぎて”落とされるロジック
売上予測のグラフだけ妙に右肩上がりで、「3年で売上5倍・利益10倍」といった“元気すぎる数字”が並ぶ計画書も、審査では警戒されます。理由はシンプルで、根拠のない売上アップは資金回収リスクの高さとほぼ同義だからです。
売上予測の評価軸は次の3点です。
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「客数×客単価」の分解があるか
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既存市場の規模やシェアから見て、現実的な線か
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補助対象経費との関係がロジカルか(広告費をこれだけ投下するから、問合せ数がここまで増えるなど)
中小機構の採択結果一覧を見ても、採択されている事業計画は、売上よりKPI(問い合わせ件数、試作品数、実証実験回数など)の積み上げで説明されているケースが多く見られます。グラフを派手にする前に、数字の“階段”をつくることが重要です。
申請書を「事業計画」ではなく「願望リスト」にしてしまうミス
新設法人の申請書で特に目立つのが、やりたいことの列挙=願望リストになっているパターンです。
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「オンラインショップも、実店舗も、海外販売も展開したい」
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「自社開発と受託開発を並行して進めたい」
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「採用も教育もブランディングも同時に強化したい」
創業期にここまで一気に進めるには、資金も人材も時間も圧倒的に足りません。審査側は、千代田税理士法人が指摘するとおり「補助金は後払い」という前提でキャッシュフローと実行体制を見ています。願望リスト型の計画書は、次の要素が欠けがちです。
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今年やることと来期以降に回すことの線引き
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社内の担当者・工数の具体的な割り当て
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自己資金・融資・補助金の資金調達バランス
補助金を「やりたいことを全部叶える魔法の財布」と捉えた瞬間、申請書は落ちる方向に転びます。「この事業のどの部分だけなら、今のリソースでやり切れるか」まで削り込んだ計画書が、結果として採択率も実行率も高くなります。
公募要領にはほぼ書いていない、“現場でしか出てこないグレー質問集”
補助金の公募要領は、法律文書とマニュアルの中間のような書きぶりです。設立まもない法人が本当に知りたい「ここがグレーなんだけど?」というポイントほど、サラッとしか触れられていません。現場で何度も相談される3大グレーゾーンを整理します。
登記日と実際の営業開始日、どちらを「創業」と見なされるのか
多くの制度は要件に「創業○年以内」「開業後○年以内」と書きますが、「何をもって創業とするか」は制度ごとに微妙に違います。
代表的なパターンを整理すると次のようになります。
| 制度の書きぶりの例 | 実務で見られる取り扱いの傾向 | 確認すべき書類 |
| 対象:会社設立後5年未満の法人 | 原則として「登記簿上の設立年月日」起算 | 登記事項証明書 |
| 対象:開業から5年未満の事業 | 個人事業からの承継なら「開業届の日付」起算が多い | 開業届控え |
| 対象:新たに事業を開始した中小企業 | 事業によっては「営業開始日」や「売上計上開始日」が問われるケースもある | 契約書、請求書等 |
特に「個人事業→法人化」のケースは要注意です。公的な解説では「法人設立をもって創業」と誤解されがちですが、公募要領の脚注やQ&Aで「個人事業の開始日からカウントする」と明記されている制度もあります。
創業年数のカウントを間違えると、申請書を書き上げた後に“そもそも対象外”と判定されるため、登記だけでなく開業届や過去の申告書も必ず確認しておきます。
決算前の新設法人に求められる数字は「実績」か「見込み」か
設立1期目の会社から出る質問で一番多いのがここです。「まだ決算も売上実績もほぼ無いのに、計画書の売上・利益をどう書けばいいのか」という悩みです。
ポイントは次の3つです。
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事業計画書の数字は、多くの制度で「将来の見込み」を書く欄として設計されている
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一方で、審査側は「見込みの根拠を裏付ける実績」を別資料で探しにきます
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新設法人の場合、その実績として個人事業時代の試算表や見込み受注の契約書を求められることがある
たとえば中小機構の補助金では、決算書が無い事業者向けに「直近の試算表の提出」や「売上計画の根拠となる資料」を求める運用がQ&Aで説明されています。
つまり、申請書はきれいな数字を書く場所ではなく、「なぜその売上になるのか」を説明する資料パックとセットで考える必要があります。
ゼロベースでグラフだけ右肩上がりにしても、審査側には「願望」にしか見えません。
外注費・広告費・人件費が補助対象かどうか、線引きが割れるケース
新設法人の資金繰りに直結するのが「どこまで経費が補助対象になるのか」です。公募要領には「補助対象経費の範囲」として設備費・広報費・外注費などの定義が並びますが、現場で割れやすいのは次のようなパターンです。
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代表者自身の報酬や既存社員の給与は、人件費として原則NG
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新たに雇用するスタッフの人件費は、雇用関係助成金で別に支援されることが多く、事業系補助金では対象外になりやすい
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Web制作会社への支払いは「システム開発費」なのか「広告宣伝費」なのか、内訳によって扱いが変わる
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デザインと広告出稿費が一体の請求書だと、対象・対象外が混ざっているとみなされ削減されるリスクがある
公表されている「停止措置事業者一覧」を見ると、補助対象外の経費を紛れ込ませていたケースが一定数あることがわかります。
避けたいのは、申請時は通ったのに、実績報告で一部経費が否認されて補助額が減るパターンです。これを防ぐには:
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見積書と請求書を「補助対象経費の区分ごと」に分けてもらう
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迷う経費は、公募要領の定義と照らしつつ事前に問い合わせる
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申請書の計画書に「どの費用をどの区分で計上しているか」を簡潔にメモしておく
新設法人の場合、1件の否認が手元資金に与えるインパクトが大きくなります。どこまで補助、どこから自腹かを最初にクリアにしておくことが、結果的に一番のリスク対策になります。
スケジュールで損する新設法人:締切延長・追加公募の「裏側の動き」
補助金は「申請書の書き方」より前に、スケジュール設計で勝負が8割決まる資金調達ツールだと考えてほしい。特に創業1年未満の新設法人は、公募スケジュールと創業年数要件のズレだけで、数百万円のチャンスをまるごと落とすことがある。
中小機構の新事業進出補助金では、第1回公募の締切が7/10から7/15へ延長された事例が公式に公表されている。この「たった5日」が、新設法人の資金繰りと事業計画書の密度を大きく変える。
「ギリギリで延長になったから助かった」では済まない理由
締切延長はラッキーどころか、準備不足の証拠になることが多い。延長が出ると、事務局は提出書類の質を一段とシビアに見る傾向があるからだ。
よくあるパターンを整理すると次の通り。
| 状況 | 表面上のメリット | 実際に起きるリスク |
|---|---|---|
| 延長発表前に完成していた | 余裕を持ってブラッシュアップできる | 他社も修正時間が増え、相対的な優位が薄まる |
| 延長を前提に追い込み開始 | 提出には間に合う | 粗い数字のまま、審査で「見込みが甘い」と判断されやすい |
| そもそも延長前提で計画 | ストレスは小さい | 次回以降の公募で延長がなくなった瞬間に対応不能 |
新設法人は、決算書や実績データが薄い分、審査側に「準備力」と「実行力」を見せる唯一の場がスケジュール管理になる。延長に助けられた体験が続くと、事業全体のタイムマネジメントも甘く見られやすい。
追加公募で要件が微妙に変わるとき、何が起きているのか
1回目の公募が終わった後、同じ補助事業で「第2回公募」「追加公募」が出ることがある。このとき、公募要領をよく読むと、次のような小さな変更が紛れ込んでいる。
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創業〇年以内 → 〇年「未満」に変更
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対象経費から広告費が一部除外
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補助率が3分の2から2分の1に低下
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審査の加点項目に「地域連携」「雇用創出」を追加
これは、単なる気まぐれではない。多くの場合、1回目の採択結果や地域バランスを踏まえて、政策目的に寄せて「狙い撃ち」した要件にチューニングしているサインだ。
新設法人にとって重要なのは、次の2点。
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1回目で狙えたゾーンが、2回目では「実質的に締め出される」ことがある
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逆に、2回目のほうが創業・開業支援に厚くなり、狙い目になる公募も存在する
つまり、「同じ名前の補助金だから去年のテンプレ計画書で行ける」という発想は危険で、毎回、公募要領の創業関連要件と加点項目をゼロベースで読み直す癖が不可欠になる。
年度をまたぐと「創業〇年以内」から外れてしまうパターン
新設法人が一番やりがちなのが、「創業何年以内」のカウントを甘く見るミスだ。ここでポイントになるのが、次の3つの日付のどれを「創業」とみなすかだ。
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法人登記日
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個人事業としての開業届提出日
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実際の営業開始日(売上が立ち始めた日)
公募要領では、「法人の登記年月日」「個人事業の開業届提出日」など、基準日が明記されている場合が多い。個人事業から法人化したケースで「法人設立から1年以内」と思い込んでいたところ、実際には個人での開業日からカウントされており、年度をまたいだ瞬間に要件から外れていたというケースは少なくない。
ここで新設法人が取るべき実務的なチェックはシンプルだ。
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自社の「開業届」「登記簿謄本」の日付を一覧にしておく
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応募予定の各補助金について、「創業」の定義を表にして比較する
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「年度末の3月」「決算月の前後」に締切がある公募は、1年前倒しで狙えないか検討する
創業期の資金は、融資、公庫、自己資金、補助金を組み合わせるタイミング勝負のパズルになる。スケジュールの1マスを読み違えるだけで、良い事業でも採択の土俵にすら上がれない。ここを押さえておくだけで、他の新設法人より一歩先に出られる。
採択されたのにお金が減る?交付後に起きるリアルトラブル
採択通知はゴールではなく、「ここから一歩間違えると赤字転落もあり得るスタートライン」です。特に新設法人は資金クッションが薄いぶん、交付後の運営でつまずくとダメージが直撃します。
対象外と判定されて補助額が削られる典型パターン
補助金は「採択額=そのまま振り込まれる額」ではありません。実際に支払った経費を実績報告し、そこから補助対象経費だけを切り出して計算されます。中小機構の採択後資料や停止措置一覧でも、対象外経費の計上がたびたび問題視されています。
よく削られるパターンを整理すると次の通りです。
| 経費の種類 | 新設法人がやりがちな誤り | 審査側の見え方 |
|---|---|---|
| 代表者の自宅家賃 | 全額を「オフィス家賃」として計上 | 事業使用部分が不明で対象外扱い |
| 既に使っているPC | 交付決定前に購入したものを計上 | 事前着手で対象外 |
| 役員報酬 | 「人件費も補助対象だろう」と計上 | 規程外人件費で減額 |
新設法人は「どうせ細かいところまでは見られないだろう」という感覚で経費を広めに入れがちですが、実務では領収書1枚単位で突っ込まれる前提で計画書と実績を揃える必要があります。
見積もりの取り方ひとつで「不自然な取引」と疑われるケース
実績報告では、見積書・契約書・請求書の流れがチェックされます。そこで目立つのが、見積もりの取り方が原因で「身内発注」「価格操作」と疑われるパターンです。
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同一グループ会社・親族企業からのみ見積取得
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相場より極端に高い単価設定
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交付決定後に仕様や金額が大きく変わった見積
千代田税理士法人のような専門家コラムでも、後払いリスクと合わせて「見積もりの妥当性」は必ず注意点として挙げられています。新設法人こそ、以下のポイントを最低限押さえておきたいところです。
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可能な範囲で複数社から見積取得し、選定理由をメモしておく
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グループ会社発注の場合は、第三者と比較しても合理的な価格である根拠を提示できる状態にする
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仕様変更が出た場合は、変更契約書・再見積もりで筋を通しておく
このあたりを雑に処理すると、「補助対象外」「一部不交付」と判断され、結果的に自己資金負担が膨らみます。
実績報告の書類に追われ、本業が止まってしまう新設法人
採択後に最も悲鳴が上がるのが、実績報告書類のボリュームです。中小機構のマニュアルや説明会資料を見ても、交付後の手続きが厚めに説明されていることから、事業者側のつまずきが多い領域だと分かります。
新設法人で起こりがちな流れは次のようなものです。
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日々の経理が追いつかず、レシートの束と銀行明細から後追いで整理
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実績報告直前に「補助対象とそうでない経費」を一気に仕分けしてパンク
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その対応を経営者自身が担うことで、営業・開発など本業が数週間ストップ
補助金は後払いのため、支払いが遅れるほどキャッシュフローはきつくなります。千代田税理士法人も指摘しているように、資金繰りと書類作成を同時に走らせる体制設計が不可欠です。
新設法人で現実的なのは、次のような体制づくりです。
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会計ソフトやクラウドサービスを早期に導入し、経費の証拠と仕訳をその日のうちに紐づける
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実績報告に必要な証憑リストを、公募要領と交付規程から着手前に洗い出しておく
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経営者だけで抱え込まず、社内担当者や外部専門家に「書類段取り」を割り振る
採択通知はもちろん嬉しい出来事ですが、「ここから半年~1年は事業と経理を二刀流で回す覚悟がいる」と腹をくくっておくと、資金も時間も削られにくくなります。
「外注まかせ」で落ちる会社、「一緒にやって受かる」会社の違い
補助金は「書類を外注すれば何とかなる」と思った瞬間から危険ゾーンに入ります。採択される新設法人は、プロに丸投げせず「事業の頭脳は社内、文書化をプロ」という役割分担を徹底しています。
ほぼコピペ計画書を量産する代行の見抜き方
新設法人の相談で多いのが「前に別の代行で落ちた」というパターンです。話を聞くと、次の特徴がセットになっていることが多いです。
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事業内容をろくにヒアリングせず、すぐ見積り
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「テンプレートがあるから安心」とやたら強調
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審査の観点より「ページ数」「提出方法」ばかり説明
こうした代行が作る計画書・申請書は、審査側から見ると「どの会社にも当てはまる作文」にしか見えません。
マネーフォワードの起業家調査でも「種類が多すぎて要件を理解できていない」声が多く、そこにテンプレを当てはめれば、要件とのズレが起きるのは当然です。
チェックの目安を挙げます。
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初回相談で「公募要領のこの要件は満たせますか?」と具体的に聞いてくるか
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自社のビジネスモデル図や売上構成の説明を求めてくるか
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不採択リスクやデメリット(後払い・社内工数)も説明するか
ここを聞かれないなら、コピペ量産型の可能性が高いと見ていいです。
プロが必ず確認する“3つのズレ”(事業内容・数字・スケジュール)
現場で採択率を上げている専門家は、まずこの3点から潰します。
| ズレ | よくある新設法人の失敗 | プロが入るときのチェック |
|---|---|---|
| 事業内容 | 「なんでも屋」的に書きすぎて焦点不明 | 補助対象となる1〜2本の柱事業に絞り込む |
| 数字 | 売上予測が右肩上がり一択 | 粗利・固定費・キャッシュ残高まで月次で検証 |
| スケジュール | 登記日・開業・設備導入・公募締切がバラバラ | 「創業◯年以内」「事業実施期間」をカレンダーに落とし込む |
中小機構の公募要領や採択結果を見ると、採択されている事業は数字とスケジュールの整合性が高いものばかりです。
新設法人ほど決算書がなく「見込み数字」の比率が高くなるため、ここを詰め切れるかどうかが明暗を分けます。
相談する前に社内で決めておくべき「ここだけは譲らない条件」
外注依頼の前に、社内で次の3点を言語化しておくと、代行選びも申請もブレません。
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資金の譲れない条件
「自己資金で先払いできる上限はいくらか」「入金が何カ月遅れても耐えられるか」を具体の金額・月数で決める。
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事業の譲れない条件
補助金のためにやらないことリストを作る。例:「本来やる予定のない新規エリア進出はしない」。
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社内工数の譲れない条件
誰が、週何時間まで申請・実績報告に使えるかを決める。千代田税理士法人も指摘する通り、後半の実績報告は想像以上に負担が重く、本業を止めかねません。
この3つを明文化してから相談に行く会社は、プロと「対等に議論できるパートナー関係」を築きやすく、結果として採択率も高まりやすい傾向があります。
それでも補助金に挑むべき新設法人、あえてやめたほうがいい新設法人
「補助金を取りにいくか、今回は見送るか」で迷っている段階が、実は一番“経営者のセンス”が問われるポイントです。ここを間違えると、申請の成否より前に、資金繰りと事業スピードを自分で壊すことになります。
新設法人の判断をざっくり分けると、次の3パターンになります。
| タイプ | 補助金との相性 | 重点ポイント |
|---|---|---|
| 成長投資を計画的に進めたい法人 | 挑むべき | 信用力アップと資金調達の両方を狙う |
| 事業モデルが変化の連続のスタートアップ | 慎重に | 制度の制約で身動きが止まらないか確認 |
| 資金・人手が極端に足りない創業初年度 | 見送り検討 | 次年度へずらし、まず土台づくり |
補助金が「信用のブースター」になるタイプの事業
補助金は、単なるお金ではなく信用の増幅装置として機能します。千代田税理士法人の解説でも、採択実績が金融機関との交渉材料になりうるとされています。特にメリットが大きいのは次のような法人です。
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設備投資やIT導入など、まとまった初期投資を計画的に行う事業
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日本政策金融公庫や銀行融資と組み合わせて、長期の資金計画を引けている法人
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事業計画書を社内で議論し、数字の根拠を説明できる経営チームがいる会社
このタイプは、補助金の審査過程そのものが「事業計画の第三者チェック」になります。採択されれば、金融機関からの見え方も一段階変わり、資金調達の選択肢が広がります。
補助金があるとむしろ身動きが取りにくくなるビジネスモデル
一方で、補助金が足かせになりやすい新設法人も存在します。
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プロダクトやターゲットを毎月のようにピボットするスタートアップ
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SNS運用や小額広告をテストしながら、細かく打ち手を変えるマーケティング重視型
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フリーランス数名で動かす、超スリムな合同会社・小規模法人
これらは、公募要領で定められた「補助対象経費の範囲」「実績報告の様式」に縛られた瞬間、柔軟な変更がしづらくなります。厚労省系や中小機構系の公募要領を読むと、外注費・広告費・人件費の線引きが細かく決められており、変更には事前承認が必要になるケースもあります。
ビジネスモデル自体を高速で変えながら仮説検証したいフェーズなら、補助金のルールよりも「自由度」を優先した方が、結果的に売上アップの速度は速くなります。
今年は見送り、来期に照準をずらしたほうが得なケース
マネーフォワードの調査でも、多くの起業家が「書類作成の負担」「スケジュール管理の難しさ」を感じています。創業1年目でこれに全力投球すると、本業が止まるリスクも無視できません。
今年はあえて申請を見送り、来期に狙いを定めた方がいいケースは、例えば次の通りです。
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初年度は売上ゼロ〜少額で、決算書もまだ見込みレベルの法人
→ 来期、最低1期分の実績を作ってからの方が、計画書の説得力が段違いになります。
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手元資金が薄く、補助金の「後払い」に耐えられない法人
→ 千代田税理士法人も指摘している通り、多くの制度は立替前提。まずは融資や自己資金で運転資金の“土台”を固める方が安全です。
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代表一人が営業・現場・経理・申請書類をすべて抱えている状態
→ 実績報告まで含めると、申請〜完了まで半年〜1年以上。人手が増えるか、業務が安定する来期を狙う選択も合理的です。
迷ったときの最後のチェックポイントは「この補助金がなくても、この事業は回す覚悟があるか」です。覚悟と土台がある新設法人にとって、補助金は強力な追い風になりますが、土台がない状態で頼り切ると、風にあおられて倒れやすくなります。
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