カード明細を開くたびに胸がざわつくのに、「次こそは気をつけよう」と誓っても、気分が上がった瞬間にまたクレジットで決済してしまう。双極性障害を抱えていると、このくり返しだけで、貯金だけでなく信用と人間関係までじわじわ削られていきます。問題は、ほとんどの対策が「自分の意思を強くする」こと前提で語られている点です。躁・軽躁という“状態の変化”と、クレジット・リボ・後払いといった「お金の仕組み」の組み合わせを外さない限り、努力だけでは再発を止められません。
この記事は、双極性障害の浪費を「性格の甘さ」ではなく「病気の症状+お金の構造の問題」として分解し、意思に頼らず破産リスクを下げる具体的な守り方を一本の線で整理します。医学的な診断・治療は医療機関の役割としたうえで、当事者の実例と医師のコメントから「どの状態で、どんなカードの使い方が危ないのか」を押さえます。そのうえで、デビットカードやプリペイド、家計アプリ、家族との共有口座などを使い、「躁状態の自分でも物理的に暴走しづらい」お金の流れを設計するステップまで落とし込みます。
さらに、「二度とクレジットカードは持たない」といった“全禁止”がなぜ現実に続かないのか、ブログやSNSで広がる自己責任論が何を見落としているのかも整理します。高額な支出をどう分割すれば生活リズムを壊さずに済むのか、月々いくらまでなら精神的に耐えられるのか、といった線引きの考え方も扱います。最後に、「またやってしまった」状態から抜け出すための今日から始める3ステップを提示し、次の受診や相談でお金の話をきちんと扱うための準備まで含めます。
このまま「気合い」と「自己嫌悪」だけでやり過ごすのか、それとも状態とお金の仕組みの両方を押さえた再発予防プランを手に入れるのか。以下のロードマップをざっと眺めて、自分に必要なパートから読み進めてください。
| セクション | 読者が手にする具体的な武器(実利) | 解決される本質的な課題 |
|---|---|---|
| 前半(病気の特徴・破産事例・意思依存の限界・当事者の工夫・カードの仕組み・診断プロセス) | 躁・軽躁状態と浪費の関係、クレジットやリボと双極性障害の相性の悪さ、実際に効いている生活リズムとお金のコントロール術の全体像 | 「なぜ何度も同じ失敗をくり返すのか」「どこまでが病気でどこからが自分の責任か」があいまいなまま、場当たり的な節約や我慢に走ってしまう構造 |
| 後半(支払い設計・家族の関わり方・3ステップ再発予防プラン) | 高額支出を生活リズムに合わせてならす支払い設計、家族と衝突せずに“ゆるく”監視してもらう仕組み、今日からできる具体的な制限と受診時の相談ポイント | 「クレジットを手放すか、また暴走するか」の二択から抜け出せず、破産や休職のリスクを抱えたまま生活している状態そのもの |
この先は、双極性障害のある人が「もう二度と同じパターンで崩れない」ための、お金と生活の設計図を具体的に描いていきます。
- 「双極性障害の浪費」はサボりじゃない。“状態”と伝達物質から読み解くお金のトラブル
- 「最初はちょっとだけ」のはずが…破産まで行ってしまったエピソードから学ぶこと
- 意思の強さだけに頼る対策はほぼ破綻する。「禁止」戦略がうまくいかない理由
- 当事者が実際にやっている“生活リズム×お金”のコントロール術
- クレジット・リボ・分割・デビット…似て非なる「カード」の仕組みを整理する
- 医師が語る診断・治療プロセスと、お金の相談を「受診」の中にどう組み込むか
- 支払い方法を変えるだけで破綻リスクはここまで下がる。「お金の流れ」を設計し直す発想
- 家族・周囲ができるサポート:禁止ではなく「一緒にプロセスを見える化」する
- 「またやってしまった」から抜け出すために——今日から3ステップだけ始める再発予防プラン
- 執筆者紹介
「双極性障害の浪費」はサボりじゃない。“状態”と伝達物質から読み解くお金のトラブル
「またやった。自分は人間としてダメなんじゃないか。」
双極性障害の浪費で悩む人が、診療の場で最初に口にするのは、ほぼこの言葉です。ここでまず押さえたいのは、浪費の多くは性格のだらしなさではなく、「脳の状態」と「お金の仕組み」が噛み合っていない問題だということです。
双極性障害と浪費癖:典型的な症状と「サイン」の出方
双極性障害では、気分が上がる「躁・軽躁状態」と、落ち込む「うつ状態」が波のように繰り返されます。浪費が出やすいのは、主に躁・軽躁のときです。
代表的なサインを整理すると、次のようになります。
| 状態 | 気分・行動の特徴 | お金まわりのサイン |
|---|---|---|
| 軽躁 | 調子が良い、アイデアが湧く、睡眠時間が短くても平気 | ネット通販で「少額を何度もポチる」、デビット残高ギリギリまで使う |
| 躁 | ハイテンション、多弁、周囲の制止が耳に入らない | 高額な契約・ローン、クレジットの限度額まで一気に使う |
| うつ | 無気力、自責感、睡眠の乱れ | 請求書や明細が開けない、支払いの督促を放置する |
双極症学生の座談会では、月13万円を「気づいたら使っていた」人が、支出額を気分のバロメーターにしていました。金額の急な増加そのものが、再発サインになるという現場感覚は重要です。
うつ病との違い:気分の変化がなぜクレジットカードの使いすぎに直結するのか
うつ病にも衝動買いはありますが、双極性障害との決定的な違いは「気分が上がる局面があるかどうか」。
双極では、この「上がった状態」で次のようなことが起こります。
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自分を過大評価し、「将来の収入も増えるはず」と感じる
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睡眠不足でもハイなまま動けるため、夜中にカードで買い物を続けてしまう
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「今買わないと損」という焦りが強まり、比較検討せず決済する
クレジットカードは「今すぐに、上限まで、実際の残高以上に使えてしまう」仕組みです。
つまり、双極の気分変化とクレジットの仕様が最悪の形で噛み合うため、うつ病よりも大きな負債や自己破産につながりやすくなります。
伝達物質・神経バランスの乱れが「判断力」と「自己コントロール」に与える影響
精神科で語られる「伝達物質の乱れ」は、日常語にすると「財布の紐を締めるブレーキが効きにくい状態」です。
躁・軽躁状態では、
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ドーパミン:快楽や「やる気」に関わる物質が過剰になり、「買うと気分が上がる」が増幅される
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セロトニン:気分の安定を保つ役割が弱まり、「まあ大丈夫だろう」とリスク軽視が強まる
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前頭葉(判断・自己コントロールを司る部分)の機能低下で、「一旦立ち止まる」が難しくなる
結果として、本人は「自分で決めた」と感じていても、実際には伝達物質と神経機能が、財布より先に暴走している状態です。
ここを理解しておくと、「意思が弱いから浪費した」という自己責任論から一歩離れられます。
双極性障害の浪費対策は、脳の状態(生活リズム・治療)+お金の仕組み(カードの種類・限度額・家族との連携)をセットで調整する作業です。意思の強さだけに頼らない設計こそが、再発リスクを下げる現実的な方法になります。
「最初はちょっとだけ」のはずが…破産まで行ってしまったエピソードから学ぶこと
躁状態の浪費が引き金となった自己破産:医療現場で実際にあったケース
「残業代も入るし、今月くらいちょっとくらい」。その“ちょっと”が、躁状態ではアクセル全開になります。
さくらこころのクリニックには、双極性障害の躁状態でクレジットカードやカードローンを使い込み、最終的に自己破産に至った人の相談が寄せられています。
気分が高ぶった状態では
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自分は仕事もできるし、すぐ返せるという過大評価
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限度額いっぱいまで使っても「まだ余裕」と感じる判断力の低下
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睡眠時間が減り、深夜のネット通販でポチポチが止まらない
といった行動の変化が重なります。
これらは“性格のだらしなさ”ではなく、双極性障害という病気の状態が、クレジットという仕組みと最悪の組み合わせで噛み合ってしまった結果です。
破産後10年間クレジット禁止。その“地味な生活”がもたらした長期的な安定
このケースでは、破産後10年間はクレジットカードが作れません。
キャッシュレス全盛の社会では大きなハンデですが、医師はそこに「皮肉な安定」も見ています。大きな借金を一度に作れないことで、躁状態でも致命的な浪費は起きにくくなったからです。
| 時期 | お金の使い方 | 気分への影響 | 生活への影響 |
|---|---|---|---|
| 躁状態〜破産前 | クレジット・キャッシングを限度額まで使用 | 一時的な高揚→請求書で急落 | 返済に追われ仕事・学業が不安定 |
| 破産後〜クレジット禁止期間 | 現金・デビット中心の地味な支出 | 「大きく失敗しない」安心感が徐々に増加 | 生活リズムと支出がリンクし、長期的には安定 |
自己破産は決して勧められる選択ではありませんが、「お金を簡単に使えない仕組み」が入った結果、生活リズムと支出リズムがゆっくり噛み合い始めた、という現場の実感があります。
休職・学業への支障:請求書を直視できなくなった人たちの心理
破産まで行かなくても、請求書を見るのが怖くなり、仕事や学業が崩れていく人は少なくありません。医療現場や当事者座談会では、次のような声が繰り返し出ています。
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カード明細の封筒を開けられず、支払いが遅れがちになる
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引き落とし日前になると眠れず、翌日会社を休んでしまう
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大学の授業料や家賃に手をつけてしまい、登校どころではなくなる
「請求書=自分の失敗の証拠」と感じる自己嫌悪と、「またやってしまったらどうしよう」という再発への不安が重なり、うつ状態を悪化させる引き金にもなります。
ここから抜け出す第一歩は、浪費を“人格の欠陥”ではなく、“病気の状態とお金の仕組みが噛み合った結果”として捉え直すことです。そうすることで、責める対象が「自分そのもの」から「仕組み」へと移り、現実的な対策に向かいやすくなります。
意思の強さだけに頼る対策はほぼ破綻する。「禁止」戦略がうまくいかない理由
「二度とクレジットカード持たない」宣言がなぜ再発リスクを高めるのか
双極性障害の浪費は、「気合い」や「性格の矯正」でねじ伏せられるタイプの問題ではない。躁・軽躁の状態では、脳内のブレーキ機能そのものが一時的に弱まり、「今だけ」「今回だけ」が連発しやすい。
一度自己破産まで行った方が「クレジットは一生持たない」と決意しても、時間がたち気分が安定してくると、「もう大丈夫かも」という自己判断が顔を出す。ここで再びカードを作り、治療や生活リズムの調整が不十分なまま使い始めると、同じパターンをなぞりやすい。
禁止宣言が危ういのは、次のような構造があるからだ。
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禁止=0か100かの発想になり、少し破っただけで「もういいや」と全面崩壊しやすい
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「持たない」こと自体が目的化し、治療や生活リズムの安定といった根本対応が後回しになる
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生活や仕事の事情から、どうしてもカードが必要になった瞬間に、防御ゼロの状態で再デビューしてしまう
本当に必要なのは、「一生禁止」ではなく、どんな状態の自分でも暴走しにくい使い方の枠組みをあらかじめ作っておくことだ。
浪費=性格の問題という誤解:家庭・社会の“教育”が悪化に拍車をかける
多くの当事者が、家族や周囲からこんな言葉を浴びて育っている。
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「お金の管理もできないなんて大人として失格」
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「自分に甘いからカードを使い過ぎる」
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「うつ病の時はあんなに落ち込んでるのに、調子がいい時は別人みたいに浪費する」
こうした教育は、本人の「自己責任感」を強める一方で、病気としての特徴や診断のポイントを隠してしまう。実際には、睡眠の乱れや気分の高ぶりと一緒に行動が変化しているにもかかわらず、「私はだらしない」というラベルだけが残りやすい。
結果として、
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受診が遅れ、躁状態のピークで大きな浪費に踏み込んでしまう
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再発しても「また自分がダメだった」と自己嫌悪に陥り、家族に相談しづらくなる
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周囲も「性格の問題」と見なしてしまい、治療や支援よりも叱責が増える
病気由来の行動を性格の欠陥として扱うと、問題は見えにくくなり、再発リスクだけが静かに積み上がっていく。
ブログやSNSで広がる自己責任論の落とし穴と、医療・心理の現場の評価
検索すると、「カードを全部ハサミで切った」「現金主義にしたら人生が変わった」といった体験談が山ほど見つかる。これらは、その人の状態や生活背景がたまたまうまくかみ合ったケースであり、教科書にはならない。
医療・心理の現場で重視されるのは、次のような違いだ。
カード対策の方向性と評価の違い
| アプローチ | 短期の効果 | 再発リスク | 医療側の評価 |
|---|---|---|---|
| 感情的な全面禁止 | 即効性はあるが続きにくい | 高い | 状態が変わると破られやすい |
| 生活リズムとセットの仕組み化 | 立ち上がりは地味 | 低い | 再発予防として推奨されやすい |
ブログ文化は「劇的な変化」「一発逆転」を好むが、双極性障害の治療と再発予防は、地味な生活リズムの安定とお金の流れの設計を積み上げる世界だ。意思の強さを磨くより、「どんな気分の時でも暴走しにくい環境を先に作っておく」ことが、現場で本当に評価されている対策になる。
当事者が実際にやっている“生活リズム×お金”のコントロール術
生活リズムと支出リズムを合わせる:日誌・家計アプリで「気分とお金」の変化をセットで記録
気分の波を「なんとなく」追いかけているうちは、お金の問題も「なんとなく」悪化します。双極性障害の患者さんでうまくいっている人ほど、気分と支出を同じタイムラインに並べて観察しています。
おすすめは、1日数行のセット記録です。
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睡眠時間(寝た時間・起きた時間)
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その日の気分(−2〜+2でざっくり)
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主な支出の合計(金額と用途だけでOK)
学生座談会では、マネーツリーなどの家計アプリで1カ月の支出が13万円に跳ね上がったタイミングが、そのまま軽躁状態のピークと重なっていました。「使った金額=気分のバロメーター」と見ることで、早めに主治医に相談しやすくなります。
ポイントは完璧を目指さないこと。数日抜けても気にせず、「波が大きく動いた週」だけでも振り返れば十分役立ちます。
デビットカード・プリペイドで「使いすぎようとしても物理的に無理」にする方法
意思の強さに頼るより、ルールをカード側に埋め込んでしまう方が安全です。座談会で散財を抑えられていた学生は、クレジットからデビットに切り替え、「親に通知が飛ぶネット銀行」を使っていました。
デビット・プリペイドの違いを、浪費リスクの視点で整理すると次の通りです。
| 支払い方法 | 使える範囲 | 残高超過リスク | 双極性障害との相性 |
|---|---|---|---|
| クレジットカード | 利用枠まで後払い | 高い(気分が高いと上限まで使いがち) | 躁状態では危険 |
| デビットカード | 口座残高の範囲 | 中(残高=ブレーキになる) | 上限を決めやすい |
| プリペイドカード | チャージ額の範囲 | 低い(チャージが手間) | 「浪費用の財布」を別に作れる |
実務的には、次のような段階的切り替えが現実的です。
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生活必需品のみクレジット、その他はデビットかプリペイド
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デビット口座には「1カ月の小遣い+予備少し」だけを振り込む
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オートチャージやタッチ決済の上限は、あえて低めに設定
「使えない仕組み」を先に作るほど、躁状態の自分から財布を守りやすくなります。
家族・パートナーに口座を開示するべきか?家庭内のコントロールとトラブルの境界線
家族に丸投げすれば安心、というわけではありません。医療現場では「全部カードを取り上げられて反発が強まり、こっそり新しいカードを作って悪化した」ケースも珍しくありません。
家族とのお金の共有は、管理ではなく“共同監視”くらいの温度感がちょうど良いです。
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給与口座とは別に「共有口座」を作る
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共有口座の入出金通知を、家族のスマホにも飛ばす
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大きな支出(例:1万円超)は、事前に一言相談するルールにする
一方で、DVやモラハラ的な支配がある家庭では、口座開示が危険になることもあります。その場合は、医師やソーシャルワーカーに状況を伝え、「どこまで家族に関わってもらうか」を第三者を交えて決めた方が安全です。
ポイントは、「自分のお金」から「みんなで見ているお金」へ、視点を少しだけずらすこと。気分の変化に気づく人が増えるほど、浪費が大事故になる前にブレーキをかけやすくなります。
クレジット・リボ・分割・デビット…似て非なる「カード」の仕組みを整理する
「同じ“ピッ”なのに、あとで地獄になるか、ダメージ最小で済むかがここまで違うのか」と、診察室でカード明細を一緒に見ながら感じることがよくあります。双極性障害では、気分の状態とお金の仕組みの“相性”を見誤ると、あっという間に破産レベルまで滑り落ちます。ここでは、代表的な決済手段の違いを、浪費リスクの観点から整理します。
空行
| 支払い手段 | お金が減るタイミング | 使える上限 | 浪費リスク |
|---|---|---|---|
| クレジット一括 | 後日まとめて | 事前の枠まで | 中〜高 |
| リボ・後払い | 毎月少額ずつ | 実質ほぼ青天井 | 最高レベル |
| 分割払い | 回数と総額が決まる | 購入額まで | 中 |
| デビット | その場で即引き落とし | 残高まで | 低 |
| プリペイド | 事前チャージ分だけ | チャージ額まで | 低 |
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クレジットカードの仕組みと、双極性障害との相性の悪さ
クレジットは「今の自分」が「未来の自分の財布」を勝手に予約する仕組みです。躁・軽躁状態では、脳内のブレーキ役が弱り、判断力や自己コントロール機能が落ちます。
その結果:
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使っている瞬間にはお金が減らない
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利用枠いっぱいまで「調子に乗りやすい」
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明細が来る頃には気分が落ちていて、開封できない
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という“最悪のタイミングずれ”が起きます。実際、学生の座談会でも「気分が少し上がった1ヶ月で13万円使っていたが、その場ではピンと来なかった」という声が出ています。クレジット自体が悪ではありませんが、状態の波が大きい人ほど、上限枠や利用場面をかなり絞る必要がある支払い方法です。
リボ払いや後払いサービスが“長期の悪化”を招きやすい理由
リボ払いや「あと払い○○」は、毎月の請求額が一定に見えるよう設計されています。ここが双極性障害には致命的で、
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「毎月1万円くらいなら大丈夫」という錯覚が起きる
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追加利用しても、請求額がほとんど変わらない
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気づいた時には残高だけが雪だるま式に膨らむ
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という構造になりやすいからです。自己破産に至ったケースでも、「リボとカードローンで“今の生活は回っているように見えた”時期」が長く続いていました。
双極性障害は再発しやすい病気で、気分の波は年単位で続くことがあります。そこにリボのような長期に残高が残り続ける仕組みが重なると、「病気が落ち着いても負債だけが残る」状態に固定されやすくなります。
デビットカード・プリペイド・少額クレジットのバランス:禁止ではなく「どこまで許容するか」の検討
一方で、「現金オンリー」にすると今度はキャッシュレス社会で生活が不便になり、ストレスが増して再発リスクを上げることもあります。ポイントは、完全禁止ではなく“どこまでなら今の自分が安全に扱えるか”を一緒に設計することです。
空行
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デビットカード
残高以上は物理的に使えないため、「使いすぎようとしても無理」という安全装置になります。実際に、軽躁で散財しやすい学生が「デビット+親に利用通知が飛ぶ口座」に切り替え、衝動買いをかなり減らしています。
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プリペイドカード
「今月の娯楽費は1万円チャージまで」など、予算を“先に封筒に入れておく”イメージです。チャージが尽きたら強制終了なので、気分が高ぶった日でもダメージが限定されます。
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少額クレジット
家賃や公共料金など、生活維持に必須で金額がほぼ一定の支払いにだけクレジットを使う方法です。利用枠を極端に下げ、ネットショッピングには登録しない、といった線引きも有効です。
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双極性障害の浪費対策は、「カードを捨てるか、持つか」の二択ではなく、状態・生活リズム・家族との関係を踏まえて、“安全に使えるレールだけを残す”微調整の作業に近いものです。気分が安定している時期に、主治医や家族と一緒に、このカード設計を見直すところから始めてみてください。
医師が語る診断・治療プロセスと、お金の相談を「受診」の中にどう組み込むか
「カードの明細を見た瞬間に青ざめて、その足でクリニックに駆け込む」。現場では、そんなタイミングで双極性障害が見つかるケースが珍しくない。診断と治療は“こころ”だけでなく、“お金のトラブル”も一緒に扱うほうが、再発リスクを確実に下げられる。
診断時に確認される生活歴・家族からの情報と、浪費エピソードの扱い
双極性障害の診断では、医師は「気分の波」と同じくらい「現実の行動」を細かく聞き取る。そこに浪費エピソードがまさに組み込まれていく。
主な聞き取りポイントは次の通り。
- 気分が高ぶった時期に起きた行動変化
(睡眠時間が減った、夜中までスマホ通販、突然の高額旅行など)
- 金銭トラブルの具体例
(1カ月でいくら使ったか、リボ払い・カードローンの有無)
- 家族や恋人が気づいていた異変
(「最近やたら荷物が届く」「クレジットの請求が急に増えた」など)
おりたメンタルクリニックの解説でも、診断時に家族からの情報を重視する理由として「本人が軽躁状態を“普通よりちょっと調子がいいだけ”と感じやすい」点が挙げられている。浪費は、本人にとっては「自分へのごほうび」のつもりでも、医師にとっては「躁状態の重要サイン」として整理される。
診察で話す際は、恥ずかしさよりも「事実ベース」が鍵になる。
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クレジットカードの明細を持参する
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過去3カ月の大きな買い物をメモしておく
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家族に「気になった出費」を紙に書いてもらう
ここまで準備して受診すると、医師は気分の波とお金のトラブルを1本の線で結びやすくなる。
薬物療法と心理・教育的アプローチ:治療効果が出てくるまでの期間とお金の扱い
治療の柱は、リチウムなどの気分安定薬と、病気への理解を深める心理教育だ。薬の調整で「気分のジェットコースター」をなだらかにしつつ、生活リズムを整えていく。
ここで見落とされがちなのが、「薬が効き始めるまでのお金の扱い」。
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薬の効果が安定するまで
→数週間〜数カ月は判断力が不安定になりやすい
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効き始めた直後
→気分が上向き「取り返そう」として逆に大きな出費をしがち
この“過渡期”は、金銭的にはレッドゾーンと考えたほうが安全だ。
治療初期〜安定するまでの目安と、お金の扱い方を整理すると次のようになる。
時期 / 病状の状態 / お金の扱いの基本方針
初期1〜4週 / 気分・睡眠がまだ大きく揺れやすい / 高額な契約・ローンは一時停止。上限付きデビットや現金中心へ
中期1〜3カ月 / 波は減るが、自己評価が揺れやすい / 家族と一緒に支出記録を確認。クレジット利用は生活必需品に限定
安定期 / 日常生活が安定、再発予防がテーマ / 将来の大きな支出を、主治医と相談しながら「タイミング」と「額」を決める
医師ブログでも、「躁状態に入ると、ふだん決めたルールが一気に吹き飛ぶ」ことが指摘されている。だからこそ、状態が落ち着いているときに「お金のルール」を主治医・家族と一緒に作ることが、実質的な再発予防になる。
受診の場でお金の問題を相談する際のポイントと、医療側に期待できるフォロー範囲
「お金の話をしたら怒られそう」「自己責任だと思われるのが怖い」。そう感じて黙ってしまう人は多いが、医療側ができることは意外と広い。
相談するときのポイントは3つ。
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感情ではなく「事実」と「困りごと」をセットで伝える
例:「先月ネット通販で13万円使ってしまい、今月の家賃が不安です」
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自分なりの対策案も一緒に出す
例:「デビットカードに変えたいので、タイミングと上限の決め方を相談したい」
-
仕事・学業への影響を具体的に話す
例:「請求書を見るのが怖くて出勤前にパニックになる」
医療側がフォローしやすい領域と、専門職を紹介する領域を整理しておくとイメージしやすい。
医療側が直接フォローできること / 他職種・外部紹介になること
気分の波と浪費の関係を一緒に整理 / 具体的な債務整理・自己破産の手続き
躁・軽躁の再発予防プラン作成 / 個別の商品・金融商品のおすすめ
生活リズム・睡眠の調整 / クレジット審査の通過可否の判断
双極性障害の治療は、症状だけを抑えるのではなく、「生活機能」を守ることがゴールに置かれている。そこには当然、お金の管理も含まれる。診察室での数分を、「気分の話」と「お金の話」の両方に使うことが、浪費癖対策として最もコストパフォーマンスの高い一手になる。
支払い方法を変えるだけで破綻リスクはここまで下がる。「お金の流れ」を設計し直す発想
躁・軽躁のときの浪費は、「その瞬間だけ財布がゆるむ」のではなく、数カ月〜数年先の生活リズムまで一気に崩します。ここで効いてくるのが、何を買うかより「どう支払うか」という設計です。
高額支出を「一括」から「生活リズムに合わせた分割」へ組み替える考え方
双極性障害では、気分と生活リズムが乱れると仕事・学業のパフォーマンスが落ち、収入も不安定になりがちです。そこに「一括払いのドンッ」とした請求が重なると、うつ寄りの状態で一気に追い詰められます。
ポイントは、自分の生活リズム(月1の給料日、奨学金日、バイト代日)に合わせて、お金の流れを細かく刻むことです。
高額支出の考え方を、あえて“家賃”に近づけるイメージを持つと分かりやすくなります。
| 支払いの形 | 気分・生活への影響 | 破綻リスク |
|---|---|---|
| 一括払い | その月だけ大きなストレス。うつ状態と重なると「詰んだ感」が強い | 高い |
| 無計画なカード分割 | その場は楽だが、来月以降の見通しが曖昧なまま積み上がる | 中〜高 |
| 収入に合わせた計画的分割 | 「毎月いくら」と把握しやすく、生活リズムに組み込みやすい | 低め |
| デビット・プリペイドでの積立→購入 | 先に貯めてから使うため、そもそもの使いすぎが起こりにくい | かなり低い |
躁のときに「パソコンを買おう」と思った瞬間に決め切るのではなく、落ち着いているタイミングで“自分の家賃レベルの支払い設計”に変えるのがコツです。
現場で起きがちなトラブル:審査に通ったのに生活が崩れるケースと、その見落としポイント
医療現場や当事者の座談会でよく出るのが、「カード審査はあっさり通ったのに、その後の請求で生活が崩れた」というパターンです。ここで多くの人が見落としているのは、次の3点です。
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審査は「払えるかどうか」ではなく「ルール上、通るか」を見ているだけ
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その人の気分の波・再発リスク・休職リスクまでは一切考慮されていない
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医師や家族と相談する前に、その場のテンションで契約してしまう
つまり、カード会社の「可」は、あなたの生活や精神状態にとっての「安全」とは別問題です。双極性障害がある場合は、審査結果よりも「うつ寄りになったときの自分でも払える額か」を優先する視点が必要になります。
仕事・学業に支障を出さないための「月々いくらなら精神的に耐えられるか」の目標設定
破綻リスクを下げる一番実務的なやり方は、数字で“メンタルの安全圏”を決めておくことです。おすすめは、次のステップです。
- 過去6カ月の最低収入(月バイトが減った月、休職中の手取りなど)を基準にする
- その金額から家賃・固定費(通信費、薬代など)を引く
- 残りの3分の1以内を「すべての分割・カード支払いの合計上限」と決める
この「3分の1ルール」は、うつ状態で出勤日数が減ったときでも生活をギリギリ守れるラインとして使いやすい目安です。学生なら、仕送り+奨学金+バイト代の「一番悪かった月」をベースに同じ計算をしてみてください。
ここで決めた金額を、家族や支援者、主治医と共有し、「これ以上の分割は契約しない」「越えそうになったら必ず相談する」という事前ルール=お金の生活リズムを作っておくと、躁の波が来ても“物理的に暴走しづらいレール”になります。
家族・周囲ができるサポート:禁止ではなく「一緒にプロセスを見える化」する
「もうカード全部取り上げよう」は、一瞬スッキリしますが、長期的には関係もお金も壊しがちです。双極性障害の浪費は“状態+お金の仕組み”の事故なので、「禁止」より「見える化と共有」で守る発想が要になります。
「カードを全部取り上げる」だけでは関係が壊れる:周囲のよくある失敗パターン
家族がやりがちなパターンを整理すると、次のような構図が見えてきます。
| 家族の対応 | 起こりがちな結果 |
|---|---|
| クレジットカードを全部没収 | 当事者が「信用されていない」と感じ、隠れて新しいカード/後払いサービスを契約 |
| 「もう浪費しないって約束して」口約束だけ | 躁状態になると約束を忘れ、「また裏切った」と自己嫌悪が悪化 |
| 家計簿だけ厳しくチェック | 「監視されている」と感じ、請求書を隠す・明細を見なくなる |
医師の現場でも、「家族が厳しく止めようとするほど、本人はこっそり借金を増やしてしまう」ケースが報告されています。ポイントは“裁判官”ではなく“同じチームのコーチ”に立ち位置を変えることです。
家族との共有口座・通知アプリ・上限設定を使った“ゆるいコントロール”
双極症の学生座談会では、親に通知が行くデビットカードを使って「完全に散財を抑えにかかっている」という声がありました。家族側は、同じ発想を家庭版に落とし込めます。
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共有口座を「生活費専用」にする
- 家賃・光熱費・定期券などをこの口座から支払う
- ここにはクレジット・後払いサービスを紐づけない
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通知アプリで“リアルタイムの声かけ”をしやすくする
- カード利用があるとスマホに通知
- 「最近ちょっとペース早いけど調子どう?」と状態への確認から入る
-
上限設定で「暴走しにくいレール」を敷く
- 月の利用上限/1回の上限を低めに設定
- 大きな買い物は「翌日もう一度話してから」にするルールだけ決める
ここで大切なのは、「使っちゃダメ」ではなく「どういう枠なら安心して使えるか」を一緒に決めることです。これは、患者本人の自己コントロール感を奪わずに、再発リスクだけを下げるやり方です。
周囲が異変に気づくチェックリスト:「最近のエピソード」から見るサイン
浪費は、気分の波が「見える化」されやすい行動の1つです。家族・パートナーが早めに気づけるよう、チェックリストとして共有しておくと役立ちます。
-
ここ1〜2週間で、こんな変化はないか
- 睡眠時間が明らかに減っているのに「元気」「平気」と言う
- ネット通販の段ボールが急に増えた
- 「明日から本気出すから大丈夫」といった“根拠のない自信”が増えた
- 新しいクレジットカード/後払いアプリの話を楽しそうにする
- 明細書や通知メールを見たがらず、話をそらす
-
話しかける時のコツ
- 「また浪費してるでしょ?」ではなく、「最近調子どう?眠れてる?」から入る
- 行動批判ではなく、状態の変化への関心をメインにする
双極性障害では、「お金のトラブル」は病気悪化のサインでもあります。家族・周囲が“支出の変化=責める材料”ではなく“体調の変化を知る窓”として扱えると、本人も相談しやすくなり、再発の“第一波”でブレーキをかけやすくなります。
「またやってしまった」から抜け出すために——今日から3ステップだけ始める再発予防プラン
「今月こそ気をつけよう」と決めたのに、請求メールを開いた瞬間に血の気が引く。このループを壊すカギは、気合ではなく仕組みを少しずつ差し替えることです。ここでは、今日から動ける3ステップに絞ります。
ステップ1:過去3ヶ月の支出と気分の変化をざっくり整理する
完璧な家計簿は不要です。狙うのは「気分の波とお金の波」を大づかみに結びつけること。
おすすめは、紙1枚かメモアプリで次の表を作る方法です。
月ごとの整理テンプレート
月|その月の調子|ざっくり使った額|大きな買い物・出来事
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◯月|好調/普通/不調|おおよそ◯万円|例:服をまとめ買い、旅行予約
◯月|好調/普通/不調|おおよそ◯万円|例:ネット通販で連日ポチポチ
ポイントは3つだけです。
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気分は「好調/普通/不調」の3段階にとどめる
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金額は「約◯万円」と大雑把で構わない
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「マレーシア留学を急に決めた」「13万円使っていたと気づいた」など、気になるエピソードを一言で書く
双極症の学生座談会でも、支出を振り返ることで「気分が上がると財布も緩む自分のパターン」が見え始めたという声が出ています。まずは、自分の波を“ざっくり見える化”する段階だと割り切ってください。
ステップ2:クレジットの利用枠・方法を見直し、「物理的な制限」を1つだけ導入
次は、「気分がハイでも突破できない壁」を1枚だけ立てます。意思に頼らないのがコツです。
候補は次の通りです。
導入しやすい“物理的な制限”候補
制限内容|狙い|具体例
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クレジット限度額の引き下げ|一度に膨らまないようにする|カード会社のマイページで上限を下げる
キャッシング枠を0にする|借金の入口を塞ぐ|キャッシング機能の停止手続き
デビットカードへ切り替え|残高以上はそもそも使えない|親通知つきネット銀行デビットなど
高額サイトからカード情報削除|「ワンクリック買い」を封じる|通販サイトの登録カードを消す
全部やろうとすると折れやすいので、今の自分にとってダメージが大きい1箇所だけ選びます。座談会では、デビット+親への利用通知に切り替えた学生が「軽躁になってもブレーキがかかる」と話していました。ポイントは、「調子が安定している今のうちに、ハイな自分を縛る仕組みを作る」ことです。
ステップ3:次の受診・相談時に、お金の問題を必ず1トピックとして持ち込む
双極性障害の診療では、睡眠や気分の変化だけでなく、浪費や衝動買いといった行動面も重要なサインとして扱われます。にもかかわらず、「お金の話は言いづらい」と黙ってしまう人が少なくありません。
次の受診では、ステップ1で作ったメモを持参し、たとえば次のように一言だけ添えてみてください。
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「気分が上がった月にネット通販が増えるみたいで、波の読み方を一緒に考えてほしい」
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「クレジットの限度額を下げたが、これで十分か不安がある」
医師側は、診断や治療調整の材料としてだけでなく、「どの時期は大きな決断を避けた方がいいか」「家族にどう協力を頼むか」といった具体的なアドバイスをしやすくなります。心理士やソーシャルワーカーにつなげてもらえるケースもあります。
再発予防は、派手な“禁欲宣言”よりも、こうした小さな3ステップを静かに積み重ねることから動き出します。気分の波とお金の波、その両方を診察室に持ち込むところが、ループを断ち切るスタートラインになります。
執筆者紹介
高額サービス向け分割決済導入を専門とする「まかせて信販」編集部です。ホームページ制作やスクール、エステなどの事業者向けに、最長96回払まで対応した信販導入を支援し、審査否決だった300万円案件の可決や、売上180%アップ事例など「決済設計」での改善を数多く見てきました。本記事ではその知見をもとに、双極性障害のある方がお金の仕組みで自分を守る視点を解説しています。
